事例 くりーむコッペパン「ほこっぺ」
取引先のカメラスタジオさんのご紹介で、八天堂マーケティング部の部長さんとお会いしたのが協業のきっかけです。その時は、八天堂さんは広くデザイナーを探されていたようで、具体的な話というより、デザイン全般の世間話のような形で終わりました。昨年の12月に改めて連絡をいただき、新ブランド立ち上げの伴走と、そのブランドに関わるアイテムのデザインをお願いしたいとご依頼いただき、プロジェクトがスタートしました。新ブランドとして、八天堂のくりーむパンの商品クオリティを保ったまま、全国のコンビニやスーパーへ販路を拡大するために、これまでの八天堂ブランドとは異なる商品を出したいというご要望でした。その時点で決まっていたのはくりーむパンであることだけ。ネーミングや商品コンセプトもこれからという、ほとんどゼロからのスタートでした。
八天堂さんでは、ブランドから新規で立ち上げるという経験がなかったこともあり、最初の打合せは真っ白なホワイトボードからのスタート。そこから私たちがファシリテートする形で、「八天堂さんがこの商品をどうして出したいのか?」「誰に対して売りたいのか?」といったことを書き出し、それらについてみんなで話し合う、ワークショップのような形式で進めていきました。初期の打合せでは、商品コンセプト作りのために商品のストーリーやターゲットなどについて意見を出し合ったり、それらを詰めていき、順を追って商品パッケージや広報アイテムといった、商品化に向けて必要なアイテムのデザイン検討を行いました。出席したメンバーは、こちらが3名で八天堂さんが5名。プロジェクト開始から商品が完成するまでに、月に一度のペースで計8回、ワークショップ形式のミーティングのために八天堂さんの本社に通うのが楽しみでしたね。
デザインを検討するプロセスにおいても、私たちから一方的に提案するのではなく、一緒に確認してもらいながら進めていきました。商品口ゴを決める際には、例えば丸ゴシックだったらこんなイメージで、手書きだったらこんなイメージです、といった案を作って壁に何枚も貼り「これは違うね」「こっちの方向は近いね」と八天堂さんに意見してもらいながら、「これが好き」と手が多く上がったデザインをどんどん絞り込んでいきました。最終案に仕上がるまでには、フォントの線の幅やイラストアイコンの目の位置など細かな調整を何度も繰り返したんですよ。今回は商品パッケージ、パンフレット、店頭ポップ、通販ショップの配送用の箱のデザインから、プロモーションに関わるホームページ作成、SNSの監修などをほぼすべてを担当させていただきました。
プロジェクトが進むうち、社員のみなさんが社長のことを大好きなのが伝わってきました。よくよく聞くと社長が社員のことをすごく大切にしていらっしゃるんですね。今回の新ブランド立ち上げにつながった「東京や広島の駅ナカで売っているくりーむパンを、それが届いていない全国の人に手軽に味わっていただきたい。生活の中に取り入れて幸せを感じていただきたい」という社長の想いがそのままプロジェクトメンバーの情熱に表れていて、新商品へのメンバーの愛情を深く感じました。
今回私たちが担った役割は、デザインを担当したというよりも、本当に「伴走した」という言葉が一番近いと思っています。プロジェクトを進めながら八天堂さんの思いを汲み取り、また私たちの提案もお伝えし、一緒に形にしていきました。発注側と受注側ではあったのですが、年齢が近いメンバーも多く、制作チームも楽しみながら自由に提案させてもらえたように思います。その結果を受け入れていだだけたのではないでしょうか。ただこれも、八天堂さんが若くて柔軟なメンバーで、一緒に勉強していこうという空気だったことも大きいと思います。後は、ブランドとして「ほこっぺ」が全国のたくさんの方々に手にとっていただけるように成長して欲しいです。これからが楽しみですね。
ゴールが予測できない状態で、企業さんと伴走するプロジェクトにおいて、今回は1番良い契約形態で進行できたと思っています。初期の契約段階では、プロジェクト一括での見積もりと、毎月の打合せやデザインする項目ごとに数字を立てたものと幾つかお出ししました。細かい見積りにするとそれがネックになり、双方が新しい提案に対して動きにくくなっては本末転倒なので、プロジェクト一括での契約とさせていただきました。依頼されたピンポイントのデザインだけ受けると、全体的なイメージづくりにおいてコントロール不能な部分が出てきて、結果的にうまくいかなくなるケースも見てきましたし。新規のブランド立ち上げに向けては、一番良い契約形態だったと思います。私達も自由に提案ができるし、思い入れが強くなって当初の予定にないことも提案しすぎちゃった面もありますが。
企業とデザイナーが、世に出したい商品に対して一緒になって情熱を注ぎ、納得いく形に昇華させるのはそんなに簡単なことではありません。東京で仕事をしているデザイナーと話すと「決裁権のある経営者と直接やりとりができる案件はほとんど無い」という話を聞くことがあります。それに比べると、広島という都市規模だからこそ「経営者の想いを感じられる距離」からの提案ができるのではないかと感じています。また、そういうデザインからは表面上の造形に限らずメッセージを伝える力が生まれるのかもしれません。多くの企業が日々努力をされ、良質な商品を市場に送り出してらっしゃいます。商品のストーリーや品質をお客様にどうしたら伝わるのか。この地でデザイナーを使って一緒に考えてみようかという企業が増えるといいなあと思います。
企業広報誌・学校案内など冊子デザイン、シンボルやロゴを制作。企画提案・編集から制作までトータルに手がけ、お客様の思いを広く皆さまへ届けるお手伝いをしています。
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