事例 畑でとれるアイスのお店AOBA
オカネツ工業さんとは、弊社のクライアントの奥山いちご農園さんを通じて知り合いました。オカネツ工業さんは、岡山で耕運機などの農機具を製造・販売している企業で、新規事業として地元の農家さんの課題解決につながる商品開発に取り組まれていました。そこで奥山いちご農園さんと一緒に開発されたのが「アイスクリーム・ブレンダーBJ」という、冷凍した果物とアイスをブレンドしてソフトクリーム状にする製品。2018年にグッドデザイン賞を受賞するなど、オカネツ工業さんが今後に期待している新製品です。その新製品のブラッグショップ(旗艦店)を作るにあたり、お声掛けいただいたのが始まりです。
依頼としては、お店の企画、運営、場所選びから全てをお願いしたいというもので、話し合いを重ねていく中で、最終的にはそのお店を運営する新会社1000n(エヌ)を設立することになりました。1000nの筆頭株主はオカネツ工業さん、千日デザインからも出資を行い、僕が会社の代表取締役に就任しました。経営に携わるのは初めてでしたが、僕自身が事業を実際に行ってみない限り本当の意味で経営者の気持ちは分からない、という思いがあったので、すごく良い機会をいただきました。
当初のお店の構想は、BJ販売促進のためのフラッグショップというものでした、しかし、それだけだとアイスの機械の購入を検討している事業者さんだけがユーザーになってしまう。このお店は社会的に何を実現しようとしているのか、アイスを純粋に食べに来てくれるお客様に向けて何ができるかなど、オカネツ工業さんとは徹底的に議論しました。そして、BJの売り上げへの貢献は条件とした上で、まずは愛されるブランド「AOBA」を作るということでスタートしました。
AOBAには2つの意味があって、僕たちが人材も知財も食材もない、何もない状態で始めたばかりという意味で青葉。もう1つは果物や野菜って青果と書くので、青果のための場所で青場です。
AOBAの方向性が決まってからは、お店のコンセプトや場所選びといった作業が一気にスタートしました。夏場に岡山の街を3日間くらい汗でびしょびしょになりながら歩き続けて今の場所を見つけたり。次にAOBAのロゴデザイン、アイスの商品開発、店舗の空間設計などが進行しました。空間設計ができてきたら店舗の施工が始まり、同時にお店の広報用の情報発信の準備に取り組んで、といった具合にとても大変でしたが、2018年8月に出資が決まってから、なんとか12月にオープンすることができました。
お店ができて1年半、ありがたいことにGoogleの口コミなどでも高い評価をいただき、美味しいアイスを求めて、お店のコンセプトに共感してくれるお客さんが来てくれている状況です。オカネツ工業さんがAOBAで商談を行うと成約率がとても高いので、BJの売り上げにも貢献できています。
AOBAでは、地域の生産者さんの果物やお野菜をアイスミルクにブレンドしてお客様にご提供しています。生産者さんのセレクトショップだと思っています。そこで、アイスだけでなくて生産者さんの農園のことや商品のこと、生産者さんの人柄だとか、そういうことも一緒にお伝えするようにしています。そこで、果物やお野菜に岡山の人が触れるきっかけになって欲しいなと思っています。取り扱っている商品は20以上、それぞれの生産者さんから仕入れたものをアイスとして提供しています。
AOBAを通じて初めて経営側にまわってみて、経営者がデザイナーにして欲しいこと、言われたいことがすごく明確になりました。「こんな時にこういうことをしてもらえたら嬉しい」と思っていることをチームのメンバーがやってくれたことも多くあって、デザイナーの重要性を改めて感じました。また今回の経験で、自分がデザイナーとして経営者さんと関わる時のヒアリングはかなり変わったと思います。
そして、今回は自社だからできることがいっぱいありました。何があろうと自分たちの責任なので、失敗しながらいろんなテストをしています。デザイナーとしての自分が企画して動いてみることで、経営者側の自分では思ってもみなかった利益を享受する、ということもあったりします。
大崎上島には3年前に移住してきました。理由はここが「関わりしろ」が多い地域だから、これから何かできる「関わりしろ」。岡山の奉還町というところでブランディングのお仕事をしているのですが、そこも一緒で、座席がまだ空いている街が好きです。逆に都市部にはいろんな方がたくさんいらっしゃるので。島での私の生活は、のどかでめちゃくちゃ忙しいといった感じです。たくさんご相談をいただいて、お金にはならない仕事になりきれない種のようなものがたくさんあって、それをいろいろな人とお話しながら仕事をどう作っていくかに取り組んでいます。
デザインを本当に必要としているところに届けるにはどうすべきか、これは僕の命題です。建築上がりで、まちづくりや地域のこと、コミュニティとかたくさん関わってきた中で、資本がない〇〇がない故に、デザインすればよくなるのにデザインできないということを多く見てきたので、そういうところにデザインを届けたい。今回経営者になったのは、そのために自分自身を使った壮大なチャレンジです。AOBAのケースで言うとデザインを届けたのは生産者さん。僕らがハブになることで、生産者さんが今までできなかったことができるようになったと思っています。
まずは1,000日くらい。長い目でデザインを考えてみる。千日デザインアソシエーションは、クライアントさまに寄り添いながら丁寧でしなやかなデザインを行います。
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