事例 ダイトベースボール
ダイトベースボールは、大都化成工業さんのスポーツ事業部門として硬式野球用品全般を扱われているブランドです。元々はプラスチックの加工がメインの事業でやってこられていたのが、現在はスポーツ部門の方がかなり伸びていらっしゃるとのことでした。会社が来年50周年を迎えられるにあたり、今後も本腰を入れてベースボールブランドとしてお客様に選んでいただくためにも、まだ手付かずだったブランディングをきっちりやりたいということで、デザイン会社を探されていました。そこで、共通の知人である建築士の方からご紹介していただいて都留社長とお会いしました。
最初はロゴがメインの依頼でしたが、かっこいいロゴだけ作っても劇的な効果は上がりません。ロゴが見た目として表に出ていくので、ロゴが何かをしてくれるように思いがちなのですが、会社の活動や理念が表面化しないとブランドとして成り立っていかないんですよね。都留社長とお話させていただく中で、現在メインの事業である高校の硬式野球部への直接販売だけではなく、今後は一般の方からも選んでいただけるようなブランドを作っていきたいという思いが理解できたので、全体としてブランディングをしていく方向で契約をさせていただきました。
ダイトさんの野球関連商品は、ボール、バットをはじめとしたあらゆる商品と、それを梱包する箱や袋などもたくさん存在します。今回の契約では、ブランドのベースとなるマインドセット(※)と、今後のブランド展開の策定、それを反映したロゴマークの制作の他に、名刺や封筒、商品、パッケージなどのツール10セットまでのデザインもまとめて行い、全体として統一感を考えたブランディングさせていただきました。
※マインドセット
考え方の基本的な枠組みのこと。
ロゴ制作に入る前に、野球界が今どういう現状なのかという分析や、他メーカーのロゴリサーチをして、ダイトさんの方向性を検証していきました。同時に、他社がどういう理念を持ってロゴを含めたブランドを作っているのかを見ていただくことで、ロゴは単なるマークの挿げ替えではないということを理解してもらえたと思います。次に、ダイトさんの商品を実際に使っている野球部の監督さんや選手たちにアンケートを書いていただいて情報を集め、コンシューマーインサイト(※)を作りました。アンケートでは商品とは関係のない普段の過ごし方やどんなことに興味を持っているかなど、ユーザーのライフスタイルを探る質問を盛り込み、お客様に訴求性のあるものが何かを探っていきました。結果、使用する中高生はゲーム世代で、ゲームにありそうなロゴに持って行くのが良いという方向性が導き出せたんです。野球をしている本人たちがかっこいい、使いたいと思えるようものになるように意識をしながら、大人が見てもかっこいいロゴを考えて作りました。
※コンシューマーインサイト
様々な市場調査や分析結果、社会動向を踏まえた上での消費者の行動の根底にある本音や核心のこと。
ブランディングする中で、企業の理念をビジュアル化したものがロゴですが、理念を一言で具体的に分かりやすく伝える言葉がタグラインです。社長と打ち合わせを重ねる中でたまたまボールを見ていた時に「THE CHOSEN ONE(選ばれし者)」という言葉がボールに記載されていました。これまでの打ち合わせやアンケートでは出てこなかった言葉でしたが、ボールには印字されているんです。先代の社長から今の社長に変わったタイミングで、社長の好きなこの言葉を入れたそうなのですが、これまで対外的には告知していなかった言葉でした。でもこの「選ばれし者」という言葉は、お客様や周りの方からも選ばれる唯一無二の存在になりたいという思いを表した素晴らしい言葉。ベースボール事業だけではなく、本業であるプラスチック加工事業の方にも言えることなので、大都さんの社全体としてのタグラインにそのまま使うことに決定しました。そうして生まれたロゴが、ダイトのDを逆さまにして見ると、タグラインを表すC1という言葉が見えてくるロゴデザインでした。
ブランドの基礎の部分となるコーポレートアイデンティティは、マインド、ビヘイビア、ビジュアルの3つがそろって完成するもの。今回のブランディングの際に、ロゴというビジュアル面だけではなく、マインドである企業理念も言語化していただき、どう行動していくべきかというビヘイビアの部分も固まりました。これで終わりではなく、ここからが本当のスタートラインなんです。社長からも、ブランディングしていく中で会社の強み弱み含めて、自分たちの事を再発見でき、野球もプラスチックも共通のコンセプトで動いていこうという社内の意思統一化ができたと言われたのが嬉しかったですね。新しいコーポレートアイデンティティを持って、お客様に選ばれるベースボールブランドとして進んでいけるように、今後もデザインでサポートをさせていただけたらと思っています。
自分の仕事としては、業種は様々ですが今回のようなブランディングをさせていただく案件が多いです。デザインする前段階でのリサーチ資料をはじめ、デザインの過程も見ていただけるような資料を細かく作ってご提案させていただくスタイルが自分の特徴かなと思います。完成したものだけを見せるのではなく、こういう根拠があるから、このデザインができたという過程も共有することで、出来上がったものに価値を感じて愛着を持って大切にしていただけるのではないかと思っています。
デザイナーというと、ロゴとか名刺とか、物理的なアイテムを作ることが仕事だと思われがちですが、僕が思うデザイナーの仕事は、経営者の方の頭の中にあるイメージをみんなに浸透させること。例えば、商品が売れないのはパッケージデザインが悪いからではなくて、全体的な雰囲気の作り方がいけないんですよ、というところを伝えながら一緒に歩いていく。ブランディングは広い意味で全部をコントロールしないと意味がないものになってしまうので、効果を発揮するためにも全体を含めてデザイナーに依頼していただいたほうがいいと思います。今後もお仕事をさせていただくお客様とは長く寄り添っていきたいです。
グラフィックデザイナー。CI(VI)、サイン・展示計画、パッケージ、パンフレット等。ブランディングを中心とし、一貫した理念のもと様々なツールを包括的に企画・制作しております。
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