事例 Bimi Smile
GKデザイン総研広島の事業としては、プロダクト・建築・コミュニケーションの3領域を軸としたデザインを行っていますが、今回は、コミュニケーションの領域の事例として、フレスタ様のプライベートブランド(※)構築のお仕事を紹介させていただきます。
今でこそスーパーやコンビニ、家電量販店など様々な流通小売業からプライベートブランドが発売されていますが、2005年当時は国内にまだ数えるほどの事例しかなかったんです。時代背景的には、BSE問題を初めとする食への不信感や有機食材への関心の高まりなど、「食の安全・安心」が時代のキーワードになっていました。フレスタさんはプライベートブランド発売以前から、食品の微生物検査やトレーサビリティ(※)など、商品の品質管理を徹底されていました。その思いを形にして、お客様に分かりやすく伝え、本当に美味しくて安全な商品を提供するプライベートブランドの開発を望んでおられました。その開発のご相談をいただき、まずはデザイナーの目から見た食品スーパーマーケットのプライベートブランド導入の意義について、プレゼンテーションをするところから始まりました。
※プライベートブランド
小売店・卸売業者が企画し、独自のブランド(商標)で販売する商品のこと。
※トレーサビリティ
食品の安全を確保するために、栽培や飼育から加工・製造・流通などの過程を明確にすること。
狙う方向としては、当時のプライベートブランドの主流だった「ナショナルブランド(※)商品に比べて価格は安いものの品質が劣る」という商品ではなく、フレスタさんが大事にしてこられた「安全・安心」で「商品の品質」にこだわったブランド展開にしていくことで、フレスタの顔になるようなプライベートブランドを作ることでした。目指すブランドの性格を出すための方向性を整理し、ブランドのコンセプトから一緒に考え、ネーミングや見せ方のシステムをご提案させていただきました。ブランドを作るときに一番大切な土台作りですね。プライベートブランドのネーミングは、何案かご提案しましたが、元々フレスタさんが大事にされている「bimi(美味)」と「スマイル」を組み合わせた「Bimi Smile」で決定し、シンボルマークのデザインやパッケージの提案と進んでいきました。
※ナショナルブランド 商品を製造するメーカーによるブランドで、商品の企画から製造までをメーカーが行うもの。
シンボルマークは「安全・安心」な食材を表す自然タッチの描画とし、手書きのイラストで手作りの良さをマークの中に表現しています。さらに、美味しさのクオリティを保証するエンブレムのような見せ方も意図しています。有機的な風合いと、食のプロフェッショナルを感じさせるような繊細さで、質にこだわるブランドイメージを伝えようとしています。
パッケージデザインに当たっては、何にこだわっている商品か『産地』『生産』『原料』『安全』『健康』『環境』という6つのカテゴリに分け、こだわりの種類とこだわりの理由をパッケージに明記するシステムを作りました。作り手の思いやこだわりを伝えるために、それを明記することが企業姿勢を伝えることに繋がると考えています。
メインカラーである紺色は、食品のパッケージには珍しい色で、これまで食品売り場ではあまり使われていなかった色なんです。でもこれが意外と何にでもあい、今までにない色だからこそ売り場で認識されやすいんです。また、紺の持つ「知的さ」や「真面目さ」のイメージも、Bimi Smileのコンセプトとも合致しています。
立ち上げ当初50品目からスタートしたBimi Smileはデザインの統一性にこだわってパッケージを作っていきました。大切なのは商品を売り場で群として見せて、お客様に「ブランド」として認識していただく事でした。生鮮品から日用品、惣菜に雑貨など、スーパーにはありとあらゆるものがありますが、その中で統一したデザインで表現されたブランドのシリーズを作り、企業としての明瞭なメッセージを伝えていくことがプライベートブランドを作る上で重要なステップでした。
それを進めていく中で、担当者の方からもたくさんの意見が出てきましたね。「パッケージにもっと目を引くような食品のシズル感(※)を出したい」「どうして商品ごとにデザインが変えられないのか?」という疑問もたくさんいただきました。これは、今までデザインに関わりのなかった方からしてみれば当然の素朴な疑問だと思います。そんな流れの中で、担当者のバイヤーさん達にデザインセミナーを行う機会をいただいたり、パンフレットを作って取引先の製造メーカーさんや従業員の皆様にブランドのコンセプトと開発マインドを伝えたりと、インナーブランディング(※)のお手伝いもさせていただきました。10年位かけて徐々にブランドが浸透していった感じがします。
現在は、ある程度ブランドが浸透しているので、ブランドとしての統一感を保ちながら、それぞれの商品のシズル感も取り入れることにするなど、現場の要望も組み入れて全体のシステムを構築しています。
※シズル感
食欲や購買意欲を刺激するような食品の活きの良さや瑞々しさと言った「おいしそうな感じ」のこと。
※インナーブランディング
企業が自らのブランドの理念やビジョン、価値を社内(社員)に理解浸透させるための啓発活動のこと。
プライベートブランドの在り方として、その上位にあるコーポレートブランドでは伝える事のできない時代のメッセージを伝え、更に商品の質を保証する役割を担うこと。また、会社のマークだけでは見えない世界観をお客様に見せてあげることができるということだと考えています。
そのため特にプライベートブランドは時代の流れを受けて、今の時代に合ったものに変化する事が前提だと考えています。実際、Bimi Smileのロゴデザインやパッケージデザインのシステムも時代にあわせて、3~4年ごとにマイナーチェンジしているんです。最近では、2014年からフレスタさんが掲げている「ヘルシスト(健康)スーパー」のスローガンを体現するものとして、これまでのBimiブランド体系を再整理して、健康に特化したブランド「健康Bimi」の開発を行いました。
ブランドの立ち上げから約12年と、長く一緒にやらせてもらっていますが、お客様にとって、フレスタが選んでいるものなら間違いないね、って買ってくれる人が増えたら嬉しいなと思います。
弊社はトータルでデザインを受けることが多いです。単体ではなく、それを取り巻く関係や環境、意味づけ、広がりを含めてクライアントと考えていくのが私たちのスタンスです。
思いには形がないんですよね。それを目に見える形にしてあげるのが自分たちの仕事じゃないかなと思っています。依頼を受けたら思いを聞いて整理する作業を繰り返します。回数を重ねてコミュニケーションをとって、経営者がこうしたいという思いを理解して、どう歩むべきかを一緒に見つけだし、それを表現で後押ししたいですね。
「デザインで花を咲かす」という表現をよく使うのですが、モヤモヤしている所に新しいものを作った時、そこにフワっと花が咲くような感覚こそ、デザインの醍醐味だと思います。これからもクライアントと一緒に、見たことのないきれいな花をたくさん咲かせていけたらと思います。
(※本記事に掲載している商品写真には販売終了した商品も含まれています。)
GKデザイン総研広島は、「プロダクト、コミュニケーション、都市・建築環境」の3領域をデザインの対象とする総合デザインオフィスです。専門横断型のフレキシブルなチーム編成により、調査研究からデザインマネジメントまで幅広い領域のデザイン業務を行っています。
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