事例 ドアパッケージ
ユダ木工さんは廿日市を拠点に、木製の建具を作り続けて100年になる会社です。国産のヒノキ材を使い、一つ一つ職人の手作業でドアを作られています。工場では、製材から商品の製造、塗装、梱包から発送まで、すべての工程を一環して行われているんです。2005年からは環境にも人にも優しい自然由来の塗料を使用され、工場で働いている人たちにも優しく、お客様にも安心安全な、手入れもしやすい商品を提供されています。
私がユダ木工さんに出会ったのは、『と、つくる』の紹介でした。ちょうど100周年を迎えられるタイミングで、会社に新しい風を取り入れていこうという動きがあったそうです。新しい視点を取り入れて、ユダ木工さんの思いをしっかり届けるようなことが何かできないかということでご紹介いただき、一緒に取り組ませていただくことになりました。
最初ご相談があった時、「変わりたいけど、何をしたらいいのか分からないから、何を依頼して作ってもらうのが良いかを一緒に考えてほしい」と言われたことが今も心に残っているんです。こういうご依頼は珍しくて、大体はパンフレットを作りたい、名刺を作りたい、というような成果物を言われてからお仕事が始まるんですね。何を作るかも一緒に考えてほしいという依頼は、信頼して任せてくださっている、本当にありがたく、幸せなご依頼だなと感動しました。
ユダ木工さんには、商品をお客様にご案内するためのカタログがあるんです。会社として大切にされていることや伝えたい思いなど、ストーリーが沢山ある会社なので、カタログから思いが溢れ出るほどでした。「変わりたい」と言われていましたが、変える必要は全くなくて、ただ、伝える内容を整理しませんかとご提案しました。煩雑に見えている沢山の情報を整理して、届けたい方へ届けること、色んな言葉で語っていた企業理念をきちんと統一すること。シンプルで分かりやすい言葉で企業の思いを整理することからスタートしました。
そうして皆さんと一緒に『森を守り、暮らしに生かし、木と共に生きる』と企業理念を定めました。ドアを作っている会社さんのコピーとしてはドアのことは書いていないので不思議に思われるかもしれません。でもユダ木工さんのことを勉強して知っていく中で、これが一番思いを伝えられる言葉でした。もう一つ、社長が発案された『葉っぱの世紀のはじまり。』という企業のスローガンとして大切にされている言葉があるんです。このスローガンが生まれた2006年から、会社として改めて環境について考え始めた転換期だといいます。自然塗料への転換もその一つだったそう。地球46億年の中で植物が生まれ、光合成がはじまり酸素ができ、我々の祖先が誕生する。木材もそうで、世の中のありとあらゆるものが葉っぱによって自然の恩恵を受けているから今がある。我々も自然の循環の一部で、これから先も持続可能な未来であるためにユダ木工ができることを常に考えられ働かれているんです。この素晴らしい思いを伝えるお手伝いがしたいと心から思って、カタログの巻頭のページのリニューアルを担当させてもらいました。
カタログができた後、嬉しいことにドアパッケージの依頼も続けていただきました。ドアパッケージとは、住宅の建設中に玄関ドアを傷つかないようにするダンボールの養生シートで、梱包する際に緩衝材としての役割もあります。また、工事が終わるまでドアにはドアパッケージを付けたまま工事現場に置かれるので、現場を少しでも明るくするようなものにしたいと、以前から自社で工夫して作られていたといいます。今回、「誰も見たことないようなドアパッケージのデザインをしてください」と依頼をいただいて考えたのは、『物語を描く』ことでした。自然の循環、手仕事での職人技など全部含めて、ユダ木工さんが大切にされている想いをイラストで描いて表現したいと思ったんです。絵というものは目に見えるものであり、同時に目に見えないものも伝えています。描く人もユダ木工さんと親和性のある方にお願いしたいと思い、自然と共に暮しておられる画家nakabanさんへ依頼して描いていただきました。
そうして完成したドアパッケージは、葉っぱの世紀のはじまりのストーリーを基に、山から海への自然の循環のモチーフを、版画で作られた温かみのあるイラストで表現しました。大切にされている世界観が伝わる、現場を明るく照らしてくれるようなドアパッケージは、社員さんをはじめ、工務店さんやエンドユーザーさんからも良い反応をいただけていると聞き、私も嬉しく思っています。
今回ユダ木工さんとお仕事をさせていただいて、ものづくりをされている会社さんが、ここまで自然のことや環境のことを考えながら実際に行動されていることに驚くとともに感動しました。地域に根付いて仕事をし、地域のために会社として何ができるかを考えられている。「これから先も持続可能であるために、地域の方からも愛される会社でありたい」と言われていたのも印象的でした。私がデザインを通して関わらせていただくことで、こんな素晴らしい会社があることを知らない方にも伝えていきたいと思います。
コトトコという名前でデザインやブランディング、アートディレクションの仕事をしています。「事(コト)」ある「所(トコロ)」へ、フットワーク軽くをモットーに、ということでcoto.toco.と名付けました。
仕事をする上で大切にしていることは、とにかく話を聞くこと。今回も湯田社長の考えられた『葉っぱの世紀のはじまり。』のことを、思いに辿り着くように何度もお話し聞かせていただきました。インプットすることで出てくるアウトプットしたものが、どう効果をもたらせるかが重要なので、私自身も社員になったつもりで理解するのが大事だと思っています。デザインって、言葉で説明して歩き回らなくても伝わっていくようなもの。その先のお客様へ、思いが正しく伝わるように、しっかりと理解した上で作っていきたいと思っています。時間はかかりますが、これからもお客様の思いに誠実に向き合い、説得力のあるアウトプットをしていきたいです。
広告制作会社を経て、2011年に独立。
「事(コト)」ある「所(トコロ)」へ。
そのものに寄り添うデザインを目指して、日々取り組んでいます。2017年HADC賞グランプリ、HADC賞受賞。
広島市中区本川町2-1-4 浜本ビル302