事例 たちまち横丁
広島の空の玄関口である広島国際空港。1階が到着ロビーと2階が出発ロビー、そして3階には飲食店があります。今回、もっと3階ににぎわいを出すために内装のリニューアルを計画されていたんです。施工する業者さんは決まっていたのですが、せっかくなら地元のデザイナーと組んでリニューアルをやったら盛り上がるのではと、僕にお声がけいただきました。実は広島空港の髙田さんは、以前僕が装飾デザインを担当していた音楽イベントに来られていたり、共通の知り合いである家具職人さんがいたりと、何かと共通点があって、僕のテイストを何となくご存知だったようです。その流れで、髙田さん、施工業者さん、僕の3社で顔合わせし、リニューアルのプロジェクトが始まりました。
リニューアルの一番の目的は、2階から3階に人を誘導し、3階に入っている飲食テナントの売り上げを伸ばすことでした。また、先行して一部赤い色の看板を設置されており、全体的なイメージは赤でいくこと、飲食店が立ち並ぶ『横丁感』を出したいということが決まっていました。横丁といっても店舗数が増える訳ではないので、現状の店舗がありつつ、いかににぎやかな横丁感が出せるかを検討するにあたり、まず空港という場所の本質を深堀していきました。僕の思う空港は、出会いや別れの中で色々な感情が交じり合う、特別な場所。広島という場所を覚えてもらうことも考えながら、どんな横丁だったら、その時の感情と共に思い出せるかなとイメージしていきました。
横丁って、路地から横にたくさんの看板が出ている雰囲気ありますよね。そこで、真っ赤にした長くて広い壁に沢山の看板を描いて、その看板の名前が広島弁になっているグラフィックをご提案しました。広島らしさと横丁のにぎわいを同時に実現できる施策です。あえて方言の意味を書いていないのは、広島以外の方が訪れた時に、「どういう意味?」と広島の人に聞くことでコミュニケーションを生むことができるから。この施策に髙田さんはじめ、空港職員の方々も共感してくださって、この場所を『たちまち横丁』と命名されました。『ひととき』を楽しく過ごしてほしいという意味を広島弁で表現された、いい名前ですよね。この名前が決まって、ロゴデザインに落とし込んでいきました。ネオンのロゴもにぎわいの演出に一役買っています。
もう一つ、横丁から続く先、今までは何もない通り道だった場所にカウンターを取り付けて仕事や休憩に使えるスペースにするリニューアルも行いました。ここがガラス張りになっていて、2階の玄関を入ってすぐ3階を見上げた時に目に入る場所なんです。「上に何があるんだろう?」と興味を持ってもらう仕掛けを作ることで、目的だった3階へ人を誘導できる。ここのデザインは看板ではなく、僕の思うようにやってほしいと一任してくださいました。海外の方も来られるので、広島の街自体を食べるようなイメージの面白いグラフィックで表現しました。もちろん赤をベースにしているので、下から見た時のインパクトは大。窓に向かって座っている方の顔も2階から見えるので、思わず上がって見たくなる良い空間になったと思います。
完成したたちまち横丁は、多分これまでの空港のイメージを覆すような、インパクトのある大胆な空間になったと思います。お客様もこの空間を驚きと共に楽しまれているようです。当初、赤い空間には空港内でも賛否両論あったようですが、結果、みなさんからの評価も高くて良かったなと思います。僕の発想を信じてくれた髙田さんが、提案したことをきちんと上に通してくれるので、安心して仕事に取り組むことができました。
たちまち横丁ができたあと、派生的に1階のコンビニが『たちまちコンビニ』となったんです。そして、そこで買えるコーヒーが『たちまちコーヒー』。髙田さんが、「そのうちどんどん赤くなって『たちまち空港』になるかもよ」と冗談を言われるのも、たちまち横丁が愛されている証拠ですよね。
今回は空港という特殊な場所の内装デザインだったので、施設的な制約や安全面などにも配慮しながら、空港にふさわしいデザインがどんなものかをしっかり考えて作りました。たちまち横丁のグラフィックに合わせて、そこに必要な案内表示などのサイン計画も僕の方で考えてリニューアルしています。制作期間が短かったので、髙田さんとはかなり濃密にやり取りさせてもらい、価値観を共有していきました。今回は目的がはっきりしていたのと、髙田さんの思いがしっかりあったので、それを僕なりの翻訳で実現できたと思います。また、方言の楽しみで会話が生まれ、副産物としてデザインだけではない、新しいコミュニケーションを作ることができました。空港に来られた方が、この場所を体験することで少しでも印象に残ってもらえていたら良いなと思います。
地元である三原にUターンして約10年、基本はグラフィックデザインを中心に、行政や企業のロゴ制作からパンフレット、ポスターなどの紙媒体、パッケージやウェブのデザインをしています。イベント事全体の企画や会場の内装、PRツール制作など全体的に関わらせてもらう仕事も多いです。屋号にしている『ノアカノ』は、常にクライアントのための自分でありたいから、「~の、赤野」という意味なんです。どれだけお客さんの思いを汲んで形にできるかが僕の仕事だと思っています。デザインをやっていて楽しいのは人の反応。最終的なユーザーの反応ももちろんですが、クライアントを喜ばせたいですし、そのために色々考えています。
三原では町づくり会社にサポートメンバーとして入っています。同じ瀬戸内でも隣の尾道は有名な町ですが、三原って意外と穴場だと思っていて。今何かするとインパクトが起きやすくなる場所なんです。人とのつながりが重要なので、出会いを大切にしながら、面白いことをして三原を盛り上げていきたいと思っています。
何かのため、誰かのためにあるデザイン
ノアカノ。
ノアカノは、
人や物をデザインでつないでいきます。
三原市港町3丁目3-5 3F