事例 ドライブスルー査定
ドライブスルー査定という前例のないプロジェクトは、約2年前に中古車店「ガリバー」を全国展開する株式会社IDOM(イドム)さんから空き店舗の活用方法について相談を受けたのが始まりでした。前職の設計事務所時代にIDOMさんとはお付き合いがあったので、今回のご担当である山下さんとは独立後も相談いただける関係でした。同社の方針として国道沿いの店舗を大型店舗に集約していて、空いた店舗で何かできないかという漠然としたお話から、活用方法を色々ご提案していて、その案の一つがドライブスルーでした。
ガリバーではユーザー自身が家にいながらスマホで情報入力していくと査定が完了するGulliver AUTO(ガリバーオート)という自動車査定アプリをリリースされていました。そのアプリとコラボさせたような、アプリの世界観を表現したリアル店舗を作る方向でプロジェクトが進み始めました。
以前に他の案件でドライブスルーのある店舗を作った経験があったので、どのように作っていくかは分かっていました。初期の段階からドライブスルーのシステムを組んでいる企業さんにチームメンバーに入ってもらい、予算や条件などはすぐに把握できる状況が整っていたので、どんどん進行していきましたね。
ガリバーではお店の顔である看板をとても大切しているので、建築的に看板を捉えることができないかと思考していく中で、徐々に看板としての建築をどう作るかということを考えるようになりました。国道沿いにスピードを出している車が一瞬で通り過ぎる状態でパッと目に入って、なおかつ看板としての機能を果たし、それが建築としての見どころとなるような看板建築です。
山下さんからは、店舗がなくても小さなスペースがあれば遠隔で無人で査定ができるということを最初に教わっていました。そこで国道に対して看板建築としての機能を満たしながら、道路から敷地に入って査定ができる位置までのアプローチをデザインしていこうと考えました。自動車査定アプリのテーマカラーであるピンクを使い、文字という要素に特化して、伝えたいことをシンボリックにアートのようにしてしまうことで、カラーや文字が際立つことを意識して作りました。ピンクの建物はメッシュ状のなので、風通しがいいのと、文字が浮いているように見えるのもポイントです。
「査定のハードルを下げる」ことでより多くのお客様に査定に来て欲しい、というのが山下さんの一番の思い。今回の建築が、ピンクのエリアに入ってくる時のワクワク感や、車から降りずにヒアリングしてもらい約3分で査定が完了するようなゲーム感覚、といったように気軽に利用できるので、まさに査定のハードルを下げる役割を担っていると思います。実際、ドライブスルー査定の件数は倍以上に増えているそうです。
現在は高松の店舗のみですが、社内・社外共に反応が良いそうなので今後の展開が楽しみです。また、コロナというタイミングもあり、非接触のユニークな査定についてメディアからも取材がきているようです。ガリバーの新しい世界観を多くの方に知ってもらいたいですね。
このプロジェクトで僕たちが担った役割としては設計をすることはもちろんですが、クライアントとコミュニケーションを重ねることにより新しい領域、今回で言えばドライブスルー査定という革新的なサービスを提供するにふさわしい新しい場所、それを作ったことだと思います。会話の中で何が提案できるか、何が必要なことかを探り、対話を重ねながら状況を良くしていくこと。そういったコミュニケーションの連続によって建築設計という行為が成り立っていると考えています。
そしてもう一つ、仕事をする上で大切にしていることがストーリーと時間軸です。僕ら建築を建てているのは現在なんです。過去のリサーチによって、現在建築をし、未来を作ること。そこにストーリーがあれば、問題が起こった時には立ち返ることができ、走った先を予想するから今がある。今は通過点なんですよね。
前職の設計事務所で出会った2人で独立して6年ですが、スタジオモブは広島と福岡の2拠点で仕事をしています。今は、パソコン1つあればどこでも仕事ができる時代。同じ場所で固まってやるのではなく、違うエリアでそれぞれがコミュニティを形成していくことが、今後の未来につながると思ってこのスタイルにしています。離れているからこそ客観的に見て違う意見を出すこともできます。僕たちのデザインするものは、人が活動する場所や、物自体。そして人々の心を動かす存在でありたいという思いでMOVE(モブ)です。今後も同時多発的に多拠点で、それこそフラッシュモブのように動きながら活動していきたいですね。
建築はクライアントありきの世界で基本的には受け身のスタンス。今後は自分たちで仕事を作っていくという視点で新しい事業も考えています。現実世界、いわゆるオフライン上では受注して建築を建てますが、オンライン上でも建築を建てられるのではないかという発想がそのベースにあります。
僕たちが大切にしている時間軸の中で、建築を建てる行為=現在、が終わると関わったお客様とも一旦終わりになります。未来も応援し続けられるようなメディアを作れば、建築が終わった後もつながることができるんじゃないか、そういう考え方でウェブの企業さんと一緒に新事業を立ち上げる予定です。現在だけではなく、未来も一緒に良い方向に向かうための創造に関わっていきたいと思っています。そんなプラットフォームやメディアを作って発信することで、人が集まり新しい何かが生まれる風景を見ていきたいです。
プロジェクトによって変化する「コミュニケーション」をデザインしながら、人々の心に感動と抑揚を与え、多様な視点で未来を創造する建築設計をめざしています。
広島市中区竹屋町8-19 Tビル竹屋町 102/広島県呉市室瀬町15-68(呉市店)