事例 35959酢
大竹を拠点に酢を造られて約90年の歴史がある酢造メーカー、三国酢造。現在で3代目となる社長の国木さんと出会ったのは、私が独立してすぐの頃、デザインを担当した大竹市のグルメマップ制作がきっかけでした。昔ながらのスタンダードな米酢やすし酢などを造っておられる企業さんなので、60代以上の年配のファンは多くいらっしゃるんです。でも、そこでじっと止まったままだと、今以上の広がりはないとお考えだった国木さんは、もっと若い世代と接点を持てるような商品や、広島を発信するお店に置けるような新商品を長年考えられていたようです。そこに昨今の健康志向もあり、飲むお酢というジャンルがでてきて、お客様からも「飲むお酢はないか」とたくさんご要望をいただいたそう。そこで、長年温められていたアイデアから生まれた新商品が「割って飲むお酢 35959酢」でした。
私に相談をいただいた時は、すでに飲むお酢の味は決まっていて、入れる瓶もすでに決めてご用意されている段階でした。広島の企業なのでレモンを使ったお酢のドリンクと聞いて、その組み合わせだと既存商品にありそうだなと思ったんですね。そこで、他の商品とは違う見せ方・飲み方が提案できたら、特徴のある商品として押し出していけますね、というお話をして国木さんと色々な飲み方を試した結果、お酒はウォッカ、水よりは牛乳がラッシーみたいになって美味しいねと発見して。飲むお酢は水か炭酸水で割るのが一般的な飲み方ですが、35959酢は、お酒や牛乳で割って飲むお酢として打ち出す方向でいきましょうとご提案させてもらいました。
商品の方向性が決まって、パッケージを考える段になった時に気になったのが、すでに決められていた瓶の形でした。背の高いスタイリッシュな形の瓶も悪くないのですが、他社さんも同じような瓶を使われているので、スーパーなど店頭に並べた時に訴えかける力が弱まるんです。せっかく作るなら見る人の心に残るものにしたかったので、何種類か瓶を取り寄せてもらって再検討し、ロゴマークにも合う丸型の瓶に決定しました。
ロゴマークはレモンの黄色、お酢の原料となる米をかけ合わせた雫型のシルエット。その図形の中に「酢」という漢字を入れると、数ある酢の商品の中に馴染みすぎて、逆に視認性が悪くなると感じたので、あえて「酢」を見せずに「酢」の商品ということが分かればいいと思い、「Su」をアルファベット、しかも逆読みに配置したグラフィックに落とし込みました。パッケージの印刷にはなるべくコストをかけないように、また、パッケージングは男性の大きな手で作業されると聞いたので、作業効率の良いように紐で結んだりの細かな作業はなしにして、シール貼りで多少ずれても大丈夫なデザインにしています。
酢は調味料なので、昔から当たり前にありすぎてあまり目を向けられていないものですし、お母さんが買うものというイメージ。35959酢はお酒や牛乳と一緒に飲む見せ方なので、男性、女性、お子様にも目新しい、これまで「酢」に興味がなかった若い方との接点になればという思いの込められた商品なんです。
これまでの三国酢さんの商品は、昔からの伝統を感じられる重厚なデザインのパッケージがメインなので、今回のポップなデザインは会社的に初めての挑戦。勇気のいることだったと思います。2018年に商品を発売して、国木さんは色々な場所に出向いて試飲販売されています。その効果もあってか、広島のお土産物屋さんや東京のアンテナショップでも販路ができています。これまでのユーザーとは違う層に向けて、お酢が身近になった商品でもあり、身近にするために生まれた商品ですよね。
三国酢さんとは事務所が近いのもあって何かあったらすぐ行ける距離感。今回の事例だけではなく、会社のパンフレットや商品に貼る小さなシール、他の商品の梱包物など色々関わらせていただいています。クライアントでもありますが、個人的にも以前から三国酢を使っているユーザーの一人なので、正直な使い勝手を話せる間柄だと思います。他の企業さんに対してもそうですが、良い事ばかり言うのがプラスではないですよね。今後も色々お話しながら、会社にとって大事な部分は残し、変えていった方が良い部分は改善しながら一緒に歩いていけたらと思っています。
私自身は20年以上デザインの仕事をしてきて、8年前に独立してからも今回のようなパッケージやロゴの製作、写真撮影の仕事をしています。話しやすい性格のせいか、デザインのテイストもあってか、女性のお客様が多いです。
また、大竹にある今の事務所ではカフェや雑貨店もしています。私自身子供がいて、お母さんになった人なら分かると思いますが、子供が小さい時は自分の事は後回しなんですよね。そういうお母さんたちが遠くに行かなくてもゆっくりできて、好きなものに囲まれる時間や、気分転換できる場所を作りたいと思っていました。運よく出会ったこの場所で、志を同じくした仲間たちと一緒にそんな思いを叶えた場所を作ったんです。カフェでは三国酢を使用していて、国木さんもよく顔を出してくださるんですよ。人が集まって来て関わってくれるこの環境だからこそ、様々なアイディアが生まれるのだと思います。
デザインって、外と内を一致させる力があると思うんです。何かをデザインする時も、ただデザインということではなくて、バックグラウンドから知った上でご提案させていただくのが私の強みです。デザイナーに仕事を頼むことを躊躇される企業さんはまだまだ多いと感じますが、仲間の一人という感覚で捉えてもらいたいですね。小さな店舗さんなどは見せ方を変えるだけでもいいお店になることもあると思います。街の電気屋さんではないですが、そんな身近な存在としてお客様と良い関係性を築けるデザイナーでありたいと思っています。
主に女性向けのグラフィックを中心に、エディトリアル、ロゴなどを制作しています。
一緒に相談しながら、柔らかに歩いていけるパートナーになれるといいなと思っています。
広島県大竹市玖波1丁目6-2