事例 幸せ色のゆず。
広島県の北部に位置する安芸高田市。その中にある川根地区で、農薬を使わず手間暇をかけて栽培されているのが「川根柚子」です。この柚子の特徴は、他の国産柚子に比べて皮に含まれる苦み成分が少ないということなので、お菓子やお惣菜などの具材として、美味しく皮まで食べることができるんですよ。その特徴を生かして生産者が自分たちで商品までカタチにして販売する、いわゆる6次産業を進めることになりました。川根には30年来のお付き合いがある市会議員さんがおられたり、川根柚子協同組合の熊高部長のお祖父様の会社CIをうちで制作させていただいたご縁もあり、川根柚子のブランドをどう育てていくのがいいか、ご相談を受けていました。最初は柚子のジュースを缶で販売されていましたが、あまり売れていなかったんです。缶を瓶にしてデザインを変えたら10万本以上売れて。そういうところからさらに期待と信頼が生まれ、川根柚子全体のプロデュースを任せていただくようになりました。
元々は生産した柚子の果汁を絞って販売されていました。それが6次産業が主流になってきたこともあり、川根柚子さんも製造から加工まで、トータル商品づくりの方向になり、今はバターケーキやお惣菜など、様々な商品ができています。うちではその商品開発や、作った商品のパッケージデザイン、販促物やWebなどすべてに係わらせてもらっています。
これらの取り組みは、川根柚子協同組合が運営しています。最近は限界集落という言葉を耳にしますが、特に田舎の方では過疎化や高齢化の問題が深刻。町おこしの一つとして商工会、安芸高田市も川根柚子を応援しています。現在は、商工会がメインで川根柚子ブランド再構築事業に取り組まれ、ブランドとして伝えるためのキャラクターやマークなど色々と制作しています。川根柚子は、ただ販売して売り上げをつくるだけが目的ではなく、町に人を集客、新たな雇用を生み出し、あらゆる方向から町自体を元気にすることが目的の事業なんです。
ブランドとしてやっていくなら、ただかっこいいだけのものではない、本物でないと売れません。昔から普通に田舎にあるものは本物。地元におられる方ってそういう自分の持っている素晴らしい資源に案外気づいていないんです。それを活かした方が素材が生きるのに、必要以上に都会を意識したデザインにしようとする。そんなものを都会から田舎にこられる方は、田舎に求めてはいないのではとお話しました。
商品づくりも、他で出ているようなものは必要はないんです。ビジュアルから始まるのではなくて、コンセプトから始まるものを。そうするとモノマネではなく、本物になります。今回の「幸せ色のゆず。」は柚子の皮を特別に大切に丁寧に加工します。この川根の苦みの少ない皮だからこその、まろやかな酸味と芳醇な香りが引き立つ、よそにはないお菓子ができるんです。手間をかけて加工したピールを幾重にも丁寧に丁寧に重ねて層にして、この「幸せ色のゆず。」が出来上がりました。
「幸せ色のゆず。」を初めて目にした時、「この色はすごい。」と。人を自然に笑顔にしてしまうと感動しました。ネーミングを決めた後、手づくりで丁寧に丁寧に作られたこのピールにふさわしい意匠をと考えた時、良い素材がそのまま伝わるような箱にしたいと思って。そこで、柚子ピールと同じように丁寧な手作業で作られた信楽焼の器にしました。この「幸せ色のゆず。」を手にした時からずぅーっと永く大切にしていただくために。この器はひとつひとつ味わい深く同じものはありません。自然体で焼き上げ、色のムラも魅力になるんですよね。でも共通しているのは角にこだわっています。優しいアールを基本に、鋭角なシャープの線は温もりのある面取りをしています。触れると優しさがつたわるような心安らぐ器です。また、柚子の色は幸せ色ですが、幸せを感じる色は人それぞれ違います。器のふたの幸せ色は5色から選んでいただけるようにしました。
「幸せ色のゆず。」は5,000円で販売していますが、地元の人からは「高すぎる」という声がたくさんあがりました。本物の商品価値に疑心暗鬼の状態でした。しかし羊羹で日本一と名高いとらやがあるなら、柚子のお菓子のジャンルでは「幸せ色のゆず。」に関しては日本一のとらやの羊羹と同格のものと自負できます。販売は日本一の味をわかっていただくお店でお願いしたいですね。
「ぐるなび 接待の手土産セレクション」で「全国の手土産の中で特選30選」に選ばれるなど、高評価をいただいています。
実は当初、川根柚子さんは桐の箱でやりたいというお考えだったんです。でも桐となると使えるのは大半は日本以外で作られているものなんですよね。せっかくの中身をそういう素材で包むのに抵抗があったのでオリジナルの陶器にしました。でも最初から自分の考え方を強く通すのではなく、クライアントがどうしたいのかを聞きます。だからまずは桐でいろんな形や大きさの多種多様なプレゼンをしました。色々要望にそって進めた上で、より良い方向に一歩ずつ前に。こちらの思いだけではなく、常にクライアントが満足するものにしていきます。最良を求めて言い合うことはありますね。そこは遠慮しないようにしています。昔は営業と製造の考え方の違いで、取っ組み合いのケンカになることもありましたね(笑)。
桐の箱がいいと言われていた川根柚子の方が「この陶器の箱は日を重ねて見る度に好きになっていく」と言われて。すぐ飽きがくるような流行りすたりのデザインではないものをと常に思っているのでこの意見は嬉しかったです。そこをわかってくださる方がいるから、私の仕事も何十年も続いているのかもしれませんね。
柚子は毎年、植えて増やしていっています。5年先、または10年先は、生産量がどんどん増えていく予定です。ただ、その10年間の維持管理が大変です。川根柚子は草刈りから収穫まで一年中手厚くスタッフが寄り添っています。収穫が終わったらまたはじまりの繰り返し。それらすべてが本物でありつづけるということですよね。関わっているスタッフ全員が、本当に丁寧にやっていることが伝わるようにしないといけないんです。小手先だけのやり方で見せ方だけカッコよくしても駄目。本物でないと続きませんよね。川根柚子は私が心から美味しいと素直に思えるものを仕上げています。本当にお客様が納得されるものをお届けし、喜んでいただけるように、今後も美味礼賛の心を大切にサポートしていけたらと思っています。
アズライフは現在まで47年間、県、市、町、公共交通機関、新聞社、銀行、旅館、幼稚園、保育園、スーパー、デパート、etc。たくさんのクライアントとお仕事をさせていただいてきました。ビジュアルだけのデザインではなくて、今回の川根柚子さんのように、立ち上げから企画制作に進むのが基本です。コンセプトからネーミング、店づくりや商品づくり、グラフィックやWebなど、あらゆるものをゼロからカタチにしていきます。どこにも言えることですが、ルーチンワークでは駄目。暮らしの中にある全てのデザインに自分流で関わりたいですね。大切なのは本物であること。今の時代、大手だから安心と思ってもあらゆる想定外のことが起こり淘汰されています。この厳しい時代に限りないアイディアを生み続けていきます。
今後もやりたいことはたくさんあります。木が好きなのでオリジナルで商品を作ってみたいですし、デザインしたものをどういう風に本当のカタチにできるか試してみたいです。あとは昔、駅前の「エールエール」のネーミングを決める際、当時の平岡市長や福屋の社長とJALの社長と大学教授のみなさんと一緒に審査委員として関わらせてもらったこともあります。広島の街づくりなど平面から立体あらゆるモノコトに携わってみたいですね。何をするにもやはり大事なのは人と人の関係。嘘のない、自然体の姿勢で、本気でいいものをという思いを、カタチにするお手伝いができればと思います。
自分は「デザインは優しさと思いやり」がすべてだと思っています。今の世の中、デザインが人の生命までも関わっていることに気づいてほしいです。テレビを見ても、街を歩いていても、人を傷つける表現や鋭い線や不可解なコピーなどがあふれています。そういうアンモラルな良心のないことをビジュアル化するのではいけないと思っています。本当に良いものをより良くするためのお手伝いができるような仕事がしたいですね。
「あっ。と。いう。こと。から。じぃ~ん。と。する。こと。まで。」本物のデザインでありつづける。
CI。パンフレット。パッケージ。キャラクター。独自なタッチ。de。
広島市南区丹那町54-5