事例 PELE
Peleの高田さんは高校の同級生なんです。花屋で修行されていたんですが、独立起業するということで相談をうけました。物件は決まったものの、始めるに当たり何からやったらいいのかという時に相談に来てくれたのが最初ですね。
どういうお店にしていきたいのか、空間はどういうものを描いているのか、そしてどんな花屋を目指しているのかをヒアリングしました。方向性の部分では、クリエイティビティを出していきたいお店なのか、それとも地域の人が気軽に寄れるような、あったかい感じのお店なのか。だからといって、どちらかに偏りたい人って実は少ないんですよね。でもそういう話を掘り下げて聞いていくと、本人も言葉にまとめきれない断片的な思いがいろいろと出てくるので、その辺りのバランス感に敏感に気づきたいと思っています。今後5年先、10年先はどうなっていたいのか、見た目の部分ではなく、気持ちの部分を聞き出していきました。
Peleの売りは何かと考えたときに、まず、個性的な造形の観葉植物がたくさん並ぶ、植物のセレクトショップ的な側面と、高田さんならではの植物を選ぶ審美眼やアレンジスタイルです。具体的には、ダイナミックで野生的なスタイルと繊細な造形表現をミックスして、植物の楽しさを感じられるPOPな表現でアウトプットする独特の感性。数ある花屋さんの中から選ばれるお店になるために、そういった個性をシンプルに分かりやすく伝えていく必要があると感じました。同時に、高田さんの想いとして、とがった印象で敷居が高くなるスタンスではなくて、地域に根差していきたいという思いもありました。高田さん自身、とても明るくフランクな人柄ですしね。一番の想いは、花や植物を暮らしの中に気軽に取り入れて、生活に潤いを与えるようなものを提供したい、ということでした。
Peleという名前は決まっていたんです。由来はサッカーの神様Pele。高田さんがサッカーが大好きで、Peleをリスペクトしているということでその名前に決定していました。そこで、ロゴにもその想いを組み込めないかと考えて、Peleのサインをオマージュしています。それが基礎の骨組みとしてあるのですが、ロゴの下に棒が一本入っているのは、Peleという文字自体が土から芽が生えている植物のイメージなんです。Peleという植物がグーッとツルを巻くようにどんどん伸びて、Pele自体も成長していくイメージですね。植物を生活に取り入れる人が増えて、よい時間を還元する、そういう芽の一つになればいいなと思います。このロゴをグルグル回るテキスタイルの模様のような見せ方もしているのですが、わしゃわしゃと植物が生えている感じは、蔦が巻きながら茂って繁栄していくイメージでもあります。
今回はオーナーである高田さんと直接やり取りしながらロゴを決めて、ショップカードなどのツールの制作を進めていきました。ショップカードが六角形なのも、裏テーマとしてサッカーボールを意識しているんです。そんな奥行きがあれば話の種にもなりますよね。また、ショップの立ち上げのタイミングは内装関係も含めて様々な予算がかかります。コストのバランスを考え、各種印刷物の片面はすべて黒一色にして、世界観の構築と印刷コストの削減を両立しました。同時に、暮らしに潤いを提供したいという想いに立ち返り、水をまいたような模様の透明樹脂を乗せる特殊加工を施し、文字どおり「潤い」を表現しています。Webサイトは、お店ができてから写真を撮影する必要があったため、オープンの2か月後位に制作しました。
六角形のショップカードはあらかじめ穴が小さくあいていて、ショップカードとしてだけでなく紐をつけて植物にかけることもできます。また、コストを考えてオリジナルの紙袋は作らず、既製の紙袋に大きめのショップタグをホチキスで留めて使えるものを提案し、採用していただいています。高田さんの方でもブーケを巻いたラッピングペーパーにタグとして活用したりと、自分が思い描いていた以上に色々活用されていて嬉しいですね。今も新しい取り組みの相談を受けています。どんどん活躍の幅を広げていくPeleの次の一歩をお手伝いするために色々とおもしろい提案ができたらと思います。
今回のPeleさんのようなお店の立ち上げにまつわるお仕事から、企業や商品のブランド構築など、想いや背景を伺って明確化することでオリジナルな世界観を形にする、ブランディングという側面のお仕事を多く手がけさせていただいています。ビジュアルを通して言葉では伝えられない「空気感」を表現することを得意としています。
すべての仕事に共通しているのは、まとまっていなくても、キーワードだけでも良いので細かく拾っていきたいということ。断片的であっても、そこから大事な部分を抽出して想いを明確化したうえで、ビジュアル表現ができてきます。デザインやコンセプトは、私が押し付けるものではなくて、クライアント様の想いをヒアリングして、それを吸い上げ咀嚼してこそ生まれるものです。提案時にはその想いを端的な言葉でまとめていきます。
ヒアリングの後に、明確化したコンセプトを添えてデザインを提案していくスタイルで仕事を進めます。いくつかの切り口で何案か提案をして、一度で決定しなくても、どこが受け入れられているのか、どれが一番フィットするか、提案自体がコミュニケーションのための糸口なんです。出た意見を融合しながら修正作業を繰り返して、想いを形にしていきます。
よく「差別化」という言葉を耳にすると思いますが、私はそれよりも「独自性」という言葉を大切にしています。
差別化というと、何か違いを無理やり際立たせないといけない気がするんです。そうするとどうしても芯がぶれてくる。たとえ他社と同じ事業領域だとしても、ポリシーやこだわり、会社の歴史や将来めざすあり方など、深いところに持っているものは絶対に違いますよね。その独自の部分を紐解いてグッと分かりやすくまとめたり、逆にそぎ落としたりすることで独自性を表現できれば、クライアント様にとっても自社の特長を整理し直すことにもつながり、より芯の強いブランドを築いてゆけると思っています。
私の妻が「Listen to Nature」というフラワーアレンジのブランドを手がけていて、私はその事業のビジュアルブランディングを手伝っています。彼女はどちらかというと感覚に長けていて、理屈よりも「直感的になんかいい」というところを大事にしています。私は普段、言葉で論理を重ねながら仕事をしていますが、彼女のブランドの仕事を通して、感度の高いビジュアル表現というのは非常に重要だと感じています。一般消費者へのタッチポイントとして、「なんかいい」「なんか素敵」というのは、絶対に必要な部分で、そのあたりの感覚は、彼女のブランドの見せ方で新しく発見できることも多くあります。お客様の仕事では、人の購買意欲やアクションにつながる部分にきちんと責任を持つ必要があるので、こういう理由だからこれがいいというような論理を先に説明しないといけない。なんかかっこいいという提案はなかなか難しいのですが、入口として、人の心に響くような、なんかいいよねっていう部分は、やはり存在すると思います。
他の仕事で、地域活性につながるイベントをお手伝いする案件がいくつかあって、回を重ねるごとに活気を増しているんです。普段はちょっとさみしい町の景色が、イベントの時はたくさんの笑顔がそこら中にあって、普段と全く違う元気な光景が広がっているんです。たくさんの人がその町の良さを知るきっかけにもなったり、その地域に住む人達の活気が高まって町の新たな動きにもつながっていたり。普段は企業活動の中でのデザインをしていますが、それらのイベントに関するデザインを通して、微力ながら少しは世の中の何かに役立ったのかなという経験ができたんです。今は、社会が元気になったり笑顔になるようなことを、デザインの力で何かできないかなということにも興味がありますね。
独自性を洗い出し「芯のある」ブランディングを。論理的・美的・直感的の3点を備えた企画立案とビジュアル構築で、奥行きあるメッセージをシンプルにユーザーに届けます。
広島市南区宇品御幸5丁目8-20