事例 広島牛田教会
広島牛田教会の西嶋さんとは、かつて先生が岩国の教会におられた時に、そこの幼稚園を作るのでご一緒しました。それ以来親交があり、今回の牛田教会の建て替えと、中で使う家具の製作の相談をうけることになりました。
最初はオブザーバーという形で入らせていただいたんですが、教会というのが特殊でして、教会は教会員さんが献げたお金で作られているんです。教会の代表は西嶋先生なのですが、施主という意味では牛田教会の教会員さん全員なんですよね。皆さん自分たちの家を作るという気持ちで臨まれていました。
デザイン以前に、まず施主である教会員さんたちの意見をくみ上げることが重要なポイントでした。何事もみんなの合意が必要で、牧師さんだけの意見を参考にはしますが、何をするにしてもみんなで協議して決めるという、民主的なスタイルなんですよね。例えば、教会の敷地内に被爆樹木である大きな楠木があるんです。建築しやすいように木を切るか、それとも平和の象徴として残すのか、という議論を何か月もされるんです。木一つとっても、みんなで時間をかけて協議して決めていくというのは、普通のものづくりとはやはり違う、教会ならではのやり方でした。教会の建物自体古く、耐震のこともあるから建て替えること、それに合わせてみんなが使いやすい家具を作ること、教会員さんの人数を考慮した予算と規模感に関しても、何か月も議論されていて、自分が入った時には、実施することと予算感は、大体決まっていました。そして、設計は仲子でいいか、というところからみんなで議論されて、任せていただく事になりました。
主にやり取りさせていただいたのは建て替えの委員の方で、そのあとに教会のみなさんに説明して納得していだくという流れでした。絶えずワークショップをやりながら進めてきた、という表現が分かりやすいでしょうか。プランを提出し、みなさんの「なぜ?」という質問に答えながらフィードバッグしていきます。皆さんから出る疑問や意見をくみ上げる形ですが、それが好き嫌いからでているのか、本質なのかを見極めることは重要。違うところはちゃんと説明して納得してもらうという作業を積み上げていきました。教会は毎週日曜日に礼拝があるので、それにあわせて宿題をもらいながら丁寧に回答していくというサイクルを1年以上かけてやっていったので、濃い共創の時間だったなと思います。
家具に関して、一般的に教会といえば、据え置きの長椅子がドーンと置いてあるイメージなんです。牛田教会さんの話で、礼拝だけではなく、結婚式、葬儀式などのセレモニーや、幼稚園の入園式・卒園式・発表会などにも教会が使われるという事でしたので、一人掛けと二人掛けの椅子を組み合わせることで、レイアウトが自由に組める椅子を考えました。
まずスケッチをおこし、図面上で議論をした上で、家具職人さんに現物のサンプルを作ってもらいます。それをもってみんなでサイズ感や座り心地を確認していただきました。「オーダー=あなたのために作りましょう」という意味ですが、デザイン的に単なるオーダーではなくて、みんなが満足できるもののために、時間とお金をかけて作り上げるというプロセスも込で作っています。
机に関しても、いろんな要望があるんです。例えば、持ってきた荷物は自分の椅子の下に置くのがいいか、前の人の椅子の下がいいか、というのも議論の一つですよね。単にかっこいいからという理由ではなく、聖書を置いてちょうどいい机幅であったり、儀式の時に便利な穴をあけたりと、モックアップを作って要望を確認していきました。家具職人さんが入ることで、技術的な耐久性の部分なども考慮しながら作り上げていったので、今のところ家具のトラブルは起きていませんね。
壇上の家具は儀式的なことを考慮しています。誰がどう座って、どう運営するかの使い方でデザインを決めています。背が高い椅子は、使っていない時でもちゃんと主張している部分が必要なのでこういう形ですし、壁のコンクリートに対してどういう素材がいいのかも考慮していますね。そういう意味でも、みんなが座る椅子とは素材を変えて作っているのも、教会ならではだと思います。
空間的に、壁がまっすぐだと威圧感を感じるので、斜めにすることで空間に広がりを持たせています。音響的にも音の広がりが感じられますね。照明も放射状にすることで、精神的にも一つのものに集約できるイメージです。正面となる十字架の方位は日が昇る方向でもあり、被爆くすの木がある方向でもあるように、色々な要素が組み合わさって、自然にこの形に行きつきました。
躯体は、そのままの素材を使うということで、コンクリート打ちっぱなしで作っています。窓側の斜めに荒く削ったコンクリートの部分は、光の当たり方が柔らかくて趣があるんですよ。礼拝中の包み込まれるような感じが表現できているなと思います。
2012年に教会が完成しましたが、今でもたまに顔を出しています。クリスマスやバザーなどのイベントの時に参加させてもらったりもしていて、その時に皆さんが私の顔を見て「自分たちの建物と家具を作ってくれてありがとう」と声をかけてくださるんですよね。時間を費やして作ったからこそ、こういういい関係性が築けているんだなと嬉しく思いますね。また、この建物は対外的にも評価されていて、広島市が主催する「第14回ひろしま街づくりデザイン賞」の大賞を受賞しました。皆さんと一緒に作り上げた教会が、このように評価されることは大変嬉しいです。
私自身の仕事としては、官公庁の仕事や、福祉施設なども多いです。今回の事例のように、施主の意見の吸い上げを丁寧にしながら、建物の在り方から考えて設計していますね。世の中的に分業化が進んでいますが、建築家という職業は分業ではなく、一人で全部まとめていける仕事だと思っていて。もちろん作業的なことは分業ですが、建物や内装、それに合う家具や周辺環境なども全体としてどう形作るかを設計していくことは建築家だからこそできることだと思います。今後も責任を持って、色々なものづくりに関わりたいと思っています。
設計理念は「夢を共に、かたちに」。クライアント・ユーザーと共に考え建築やプロダクトを創ります。環境や芸術性にも配慮し、人や地球にやさしいデザインを提案します。
広島市西区己斐本町1-23-15-205