事例 「私たちが薦める100冊プロジェクト/100 Books for Understanding Contemporary Japan」
100冊プロジェクトのクライアントである日本財団さんは子どもや障害者、災害復興などに対する様々な支援事業を手がけていらっしゃいます。その事業の1つに、ハンセン病制圧があります。ハンセン病の治療活動や、偏見や差別を無くす各国の取り組みを英文ニューズレターにまとめ、医療機関・行政関係者の方々に届けるという事業を十数年近く取り組んでいらっしゃいます。テキストはイギリス人編集長によってまとめられ、そのレイアウトを長年お手伝いさせていただきました。
100冊プロジェクトは近代日本にテーマを絞り、英語で書かれている書籍を、政治・経済・社会・歴史・芸術という5つのカテゴリーに分けて紹介しています。アメリカの図書館などが近代日本についての蔵書を選定する際の一助にしていただければ、という目的のプロジェクトでした。プロジェクトが始まる際に、英文が分かる・組めるデザイナーとしてお声がけいただきました。
本を選定する委員として大学教授、作家など、近代日本に造詣の深い方々が10名ほど参加されていました。私は本全体のエディトリアル・デザイン(※)担当なので、直接のやり取りはイギリス人編集長と日本財団ご担当者の方と行いました。
1冊につき1ページで紹介。100ページに目を通すとなると、全体としてそれなりにボリュームがあります。1ページ当たりの文章も抑えた方がよいと判断し、ある程度の余白を感じることができるひながたを決めました。原稿の文字数が始めに決まるパターンでしたが、案件によってその順は異なります。
※エディトリアル・デザイン
新聞・雑誌・書籍などの出版物のデザイン。 読み手の視線、媒体の仕様用途などを考えて視覚的に効果的な図や写真等を整理・配列・編集あるいは計画すること。
本の表紙など装丁デザインも担当しています。全体的な予算の関係もあり、本文はモノクロと決まりましたが近代日本の紹介がメインテーマなので、分かりやすいように象徴的な赤を使用しています。王道ですが、赤とスミ(モノクロ)の二色展開にして、赤という色の持つ強さを活かしました。
このプロジェクト自体は2008年にスタートして、その後海外のブックデザイナーや日本人作家が登壇するシンポジウムなどのイベントへと発展していらっしゃるようです。
元々、英文ビジネス月刊誌のデザインデスクでイギリス人アートディレクターと仕事をしていました。そんな職歴もありますので今回の100冊プロジェクトのようなページ数のある欧文エディトリアル・デザインが案件数としては多いです。留学経験があり、英語と韓国語で意思疎通ができますので、それをご存知の方からは多言語関係の依頼もあります。日英併記の会社案内や学校案内、パリのガイドブックなども制作しました。パリのガイドブック制作の際は、現地のコーディネーターの方を探したり、現地でのロケハンや撮影も担当したり… 装丁も展開するとパリの地図になるような特殊折りなカバーの提案もしました。
エディトリアル・デザインの他には、広島駅で通訳ボランティアをされている「Hello! Hiroshima Project」さんのVI(ビジュアル・アイデンティティ)を作ったり、地ビールのラベルといったパッケージ・デザイン、イベントの企画も多いです。最近ではオレゴン州ポートランドで知ったアメリカ人映画監督作品の日本での自主上映のコーディネーションと日本語字幕の監修なども行っています。また、オリジナルのプロダクトの制作販売もしていて、シンガポールのミュージアム・ショップなどで取り扱っていただいています。
現在は東京と広島の主に2拠点で活動していますが、広島の拠点として本格的な厨房設備のある貸しスペース「20T(にじゅっつぼ)」を運営しています。以前はシェアオフィスを借りていましたが、瀬戸内のインバウンド関係の仕事が増えたこともあり、イベントのできる自社の拠点があれば便利だと思って20Tを作りました。自社イベントで使うだけではなくて、これから何かやってみたい人、例えばお店をやってみたいという方のために、お試しの場になればとも思っています。ここに来たら一緒に考えてくれる人がいて、アイディアも広がる拠点と思っていただければいいですね。
色々なことを手がけていますが、自分自身を一言で表すなら「コミュニケーション・デザイナー」でしょうか。ページもののレイアウト、記事の執筆、またはイベント運営であっても、それは全部「デザイン」です。お客様と、エンドユーザーと、何かしらの形でコミュニケーションをとっています。お客様の想いを聞き、最終的に誰に向けて何をどのように作るかを、一緒に決めていきます。
例えば、多言語の会社案内や製品カタログを作りたいという依頼を受けたとします。その際にカタログをきちんと作れるのは自社の売りの一つです。きちんと、というのは欧文の組み方だけではなく、事業内容によって、その分野に強いネイティブの翻訳者を立てることも意味しています。文化の違いもありますので、色の概念1つとっても日本人のそれとは違うこともあります。商品パッケージの見せ方や、現地のオーディエンス(※)にどう映るかなどのヒアリングも必要であればお手伝いできます。
※オーディエンス
広告メッセージの受け手のこと。
cooltiger ltd.としては一人ですが、プロジェクトごとに様々な業種のプロの方々とチームを組み、進めています。手がけている案件や活動は一見、分野違いに見えますが、実は全部つながっているように思います。イベントを企画・運営したら、その紹介記事を書いたり、イベントでの配布物をデザインしたり、時には直接作ったり… 案件の先にいらっしゃるエンドユーザーを考えて、必要なもの・最適なものをデザインしています。コミュニケーションから生まれる思いがけない展開までも含めて、楽しく、面白いことを一緒に形にしていくことができれば嬉しいです。
単に印刷物の制作だけでなく、そのあとの本当の目的は。
他言語圏のお客さまからは、どう見えるのか。
それらも含めて、考えます。
広島市西区三滝本町