事例 tsumibako
高橋さんと作った「tsumibako」は、元々商品開発をやろうと思って作ったものではなくて、岡山のパン屋さんのリノベーションプロジェクトに取り組む事になったのがきっかけでした。元工場だった場所をパン屋さんにリノベーションするプロジェクトだったのですが、予算が限られている事もあり、内装にはお金をかけずに商品を陳列する什器に注力する方向になりました。オーナーさんの要望が、「店舗の什器としても使えて、マルシェなどに出店する際には仮設的に使える展示台のようなものが欲しい」というものでしたので、汎用性があり、持ち運びもしやすいものとして、箱を組み合わせてできる什器を作りました。具体的には、3パターンの箱で、これを店内にたくさん組み合わせ、象徴的にレイアウトすることで、空間全体をデザインしました。
箱は木の素材で作ろうと考えていて、お声がけしたのが高橋さんでした。高橋さんとは出会って間もない頃でしたが、広島の熊野町でとても丁寧な手仕事で家具を作られていたので、ぜひ協力していただきたいと思い、相談しました。木に関しての知識が大変豊富な方で、彼がいなければこの商品はできなかったと思います。こちらの意図を伝えて、実際に作る上で課題となる部分については高橋さんのアドバイスを受けながら進めました。また、箱自体の製作もお願いしました。
いろんな方がいろんな場面で使えるように汎用性についてはかなり意識して作っています。設置する空間に応じてパーツを増やしたり減らしたりもできます。また、組み立てやすさや可動式という点で、軽さにも配慮しました。軽さの観点と強度面、コスト面から箱の材料は集成材の桐にしています。また、パン屋さんでは頻繁にトレイを並べ替えるので、箱につく傷のことをオーナーさんは心配されていました。そこで、この箱ではうづくり仕上げを使って意図的に表面を荒らして表面強度を上げる方法をとりました。箱の四隅のディテールにもこだわっていて、箱の構造強度を強めると同時に、精緻感のあるデザインにもなっていると思います。
一見するとバラバラに箱をつなぎあわせているようにも見えますが、この配列はProcessingというソフトを使い、3パターンの箱の組み合わせをプログラム上でコントロールしてデザインしています。プログラム上で箱の数や什器のレイアウトの粗密をコントロールし、もっとも合理的な組み合わせを見つけ出すやり方です。難しそうに聞こえるかもしれませんが、プログラムを作れば、その中でパラメーターを操作する事で実際の箱を組み合わせたシュミレーションができるので、パン屋のオーナーさんと一緒にパソコンを眺めながらパラメーター調整をして最終的なデザインを決めていきました。デザインの作業自体にオーナーの方が携わって頂けたので、より愛着のあるものになったと思います。私の専門の一つがコンピューテーショナルデザインで、現在は広島工業大学でコンピュテーショナルデザインによる建築設計の教育と研究をしています。
パン屋さんの時点では、商品ではなく店舗専用のプロダクトだったのですが、その後のプロジェクトで、アパレルショップやショールームなどに納品させてもらう機会に恵まれ、少しずつアップデートしていきました。そうしてブラッシュアップしていったものを、より多くの方に届けることができるのではないかと思い、高橋さんと相談して商品化することにしました。ネーミングは「tsumibako」として、一般の方にも届けられる価格帯を探りながら、郵送を念頭に入れた梱包方法を含めた改良を行い、リリースしました。
この「tsumibako」では、高橋さんと一緒に箱にデザインを行っているのですが、主にデザインしたのは商品自体というより、箱を組み合わせて使える仕組みの部分だと思っています。商品を作ったら終わりではなくて、プログラム上でそれらのレイアウトを検討できるようにしているので、いろんな方がいろんな場面で使えるようになったと思います。そういう意味で、仕組みのデザインができた商品だと感じますね。
設計事務所をしているので、プロダクトデザインの依頼というのはほとんどないのですが、今回こういう形で自分達の手掛けた商品が世の中に出るということはとても面白く、良い経験になったと思います。
他のプロジェクトで企業さんとお仕事をしている中で、商品のデザインだけではなく、その魅力の伝え方や、企業の仕組みの部分のお手伝いをさせていただく機会があって、その中でデザインの力がものすごく有効であると感じることがありました。軸としては建築やプロダクトのデザインはあるんですが、デザインの立場から企業活動そのものに携わり、企業が元気になるきっかけを作れるような仕事ができたら理想的だと思っています。普段は設計といった限られた範囲での仕事が多いのですが、商業施設をアートディレクターの方と一緒になって設計したプロセスはとても刺激的で面白かったですね。いろんなジャンルの方が意見を交わして作り上げていくことに、ものを作りだすことの醍醐味を感じました。今後もいろんな方とお仕事をしていきたいと思っています。
戦後間もなく祖父の杉田三郎が始めた設計事務所。商業施設から公共建築まで幅広い建築の設計・監理業務を行いながら、分野を超えた様々なプロジェクトを進めています。
広島市中区上八丁堀7-5