事例 西条楠本生石鹸
楠本さんは2年前まで雑貨屋を経営されていて、その店頭で手作り石鹸を販売されていました。商品名も特に無く、「手作り生石鹸」という名前で、簡易包装で売られていました。その石鹸が好評だったこともあり、現在は手作り生石鹸を中心にやられています。西条の石鹸ブランドとして定着させるためにも、ちゃんとしたネーミングを決めてパッケージもきちんとやっていこうということでご依頼を頂きました。今回の楠本さんのお仕事は知人の紹介から始まりました。
楠本さんとは、この生石鹸をどう世の中に出していこうか、というところから一緒に考えながら作っていきました。石鹸作りの背景や理念、これからどう成長していきたいかというような話をしっかりしました。デザインしていくにあたって、僕がその人の物づくりに対する思いを良く知ることが大切だと思っているので、クライアントとはじっくり時間をかけて話すようにしています。石鹸業界の事は全く未知の世界だったので、実際の現場でどのように作っているのか1から10まで聞いて、とにかく全部見せてもらった感じです。最後には、クライアントとデザイナーの枠を越えて、友達のようになっていました(笑)。
この石鹸の特徴は、西条の酒粕が入っている事。「西条」と「楠本」。2つの言葉の響きの相性の良さを感じ、「西条楠本」という屋号にして、西条の酒粕を使用している事をPRしながらその町に馴染むような商品作りをしていきましょう、とお話をさせて頂きました。名前、ロゴ、ビジュアルのアイデンティティーの核を作って展開していくことで、ブランドが定着していきます。
西条は酒蔵が多く、有名な酒どころなので、そこでできた商品として町の歴史や景観にあわせたクラシカルな表現と、ちょっとモダンな要素も入れたデザインにしています。酒蔵通りにあるショップに置いてもらって、訪れた方におみやげとして買って頂くことも想定しました。
この石鹸の単価は一つ600円。一般的な石鹸の価格よりは高いですが、苛性ソーダが入っていない石鹸としては比較的安価です。パッケージにコストはあまりかけられません。元々そんなに予算がかけれないところから始まっているので、商品に巻く帯はA4で5種類を一緒に印刷して、裁断は楠本さんのところで行ってもらっています。ひと手間がかかりますが、コストを最重要視した方法です。
印刷に関する知識というのはクライアントにはないので、コストの抑え方の提案もデザイナーの仕事だと思っています。この案件は、デザイン的に許容できる範囲で、こんな風にするとパッケージのコストを下げられるという提案を色々と行いました。しかし、ある程度のクオリティーがないと販路の開拓が難しい。そういう所のバランスをとることが、とても重要だと考えています。
西条楠本 生石鹸は、パッケージデザインなどを見直したことで、百貨店の催事などにも呼ばれるようになりました。商品の魅力が引き出されたデザインはバイヤーさんの目にも留まりやすいと思います。
楠本さんと一緒に事業をしている奥さんは、これまでは人に勧めにくかった商品が、パッケージやビジネスツールを作ったことで自信をもって勧められるようになった、とおっしゃっていました。自身のブランドがデザインによって確立されたことで、モチベーションもあがって、意識に変化があったそうです。
ご主人の楠本さんも、フライヤーやショップカードなどプローモーションツールを作ったことによって、宣伝も積極的にしていただけるようになりました。また、パッケージを変え、包装紙を用意したことで、西条のお土産やギフトとしても利用してもらえるようになりました。今までは個人的に使っていただいていた生石鹸ですが、「ちょっと人にも教えたい」、「他の方に試してみてもらいたい」、というお客様も増えたそうで、“自分たちが作ったものに自信が持てるデザイン”をご提供出来たと実感出来ました。
僕はクライアントと仕事する際に、社会からどのように見えていたいのか、どういう方向性に進んでいきたいのか、その部分を注意深く聞くようにしています。クライアントとは着地点を明確にして、しっかり共有し、同じ方向をみて進んでいきたいからです。グラフィックデザインという手法を通じて色々な問題を解決していく。きちんとブランドの向かう先のことを見据えて作ったデザインは、作り手の熱意がエンドユーザーに必ず届きます。それがデザインで解決できない場合は、別の手段も一緒に考えていけるようなクライアントに寄り添うデザイナーでありたいと思っています。
お客様の業種・メディアの特長に沿ったデザインプランを心がけ、時代性を意識しながらも、普遍的な魅力のあるロゴ・シンボルマーク、パッケージ、広告などの各種ツールを制作します。
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