3月18日にTSUGI代表の新山直広氏、UMA/design farm代表の原田祐馬氏を広島市役所にお招きして、行政にデザイン視点を取り入れる手法や地域活性化のヒントなど「行政×デザイン」のテーマでお話いただきました。
前半は、福井県、佐賀県の行政のプロジェクトにそれぞれデザイナーとして関わっている2名の講演、後半は、株式会社GKデザイン総研広島 代表取締役社長の彌中敏和氏をファシリテーターに迎えてパネルディスカッションを行いました。
新山直広
TSUGI LLC. 代表 / クリエイティブディレクター
「福井を創造的な地域にする」をビジョンに、地域に何が大切で何が必要かという問いに対して、リサーチとプランニングを繰り返しながら、これからの時代に向けた創造的な地域づくりを実践している。
グッドデザイン賞特別賞、国土交通省地域づくり表彰最高賞など受賞多数。鯖江市デザイン政策アドバイザー、2024年度グッドデザイン賞審査員。
原田祐馬
UMA/design farm 代表 / アートディレクター / デザイナー
大阪を拠点に日本各地の文化や福祉、地域に関わるプロジェクトを中心に、グラフィック、空間、展覧会や企画開発などを通して、理念を可視化し新しい体験をつくりだすことを目指している。
グッドデザイン金賞、第51回日本サインデザイン賞最優秀賞(2017年度)など国内外で受賞多数。名古屋芸術大学特別客員教授、グッドデザイン賞審査委員。
新山さんは大学卒業と同時に鯖江市に移住し、市役所での勤務を経て、デザイン事務所「TSUGI」を設立。
行政経験を活かし、福井をより創造的なまちにするため、「支える、つくる、売る、醸す」の4つの軸を掲げ、地域に必要なことを少しづつ形にされてきました。
取り組みの一環として自社ブランドの運営もされており、セミナーでは、眼鏡の端材を使って作られるアクセサリーブランド「Sur」、デザイン性とストーリー性を大切にしたギフトショップ「SAVAstore」などを紹介してくださいました。
事業者さんとのやり取りを重ねる中で、「カッコいいデザイン」ではなく、何より「ちゃんと売れるかどうか」が求められていると実感されたことから流通や販路について学ぶためにも、自社ブランドの立ち上げに至ったそうです。
鯖江は、かの有名な鯖江眼鏡をはじめ越前漆器や和紙、刃物など、地場産業が根付く「ものづくりのまち」。
しかし、近年の人口減少とともに地域の話題性が薄れ、「頑張って色々やっているにもかかわらずなぜ目立たないのか」と思い悩み、鯖江の特徴を根幹から見直すことにしたと言います。
そこで鯖江は、「自分たちで作り出す文化」が特徴だと思い至り、「つくるさばえ」というプロジェクトが生まれました。
これまでの市主導の一方方向の発信から、色々な人を巻き込んで事業を考える方向に切り替え、みんなでチャレンジしていく空気を育てていくことが大切だと考えられています。
新山さんたちがやっているのは、ものづくりだけでなく、「ものづくり」「まちづくり」「ひとづくり」「ことづくり」「支え手づくり」。
「そこに住むすべての人たちが、様々な分野でアクションを起こし、行政と民間が手を取り合いながら進めることが重要だと感じています」との言葉で締めくくっていただきました。
原田さんは、大阪を拠点に全国各地で活動されており、元々は新山さんと同じく建築学科出身で現在は美術系大学の講師やグッドデザイン賞の審査員など多岐に渡りご活躍されています。
広島のお仕事では尾道U2のロゴデザインや砂谷牛乳のパッケージリニューアルを手掛けられています。
セミナーで語られたのは、デザインが私たちの生活になぜ必要かという問い。
今私たちが生きている社会は不安定でスピート感も早く、人々の感情も溢れてしまっている。そんな中、デザインはこぼれた感情を拾う「コップ」のような役割を果たすのではないかとのこと。デザインがあることで、対話が生まれ、喜びや悲しみを共有できる力を持つと仰っており、デザインの役割について新たな視点を得ることができました。
佐賀県庁との取り組みでは、「開かれた県庁」を目指し、県民が用事がなくてもふらっと立ち寄れる空間づくりが進められました。
佐賀の景色を一望できる場所や、かつての食堂をリノベーションしカフェとして開放するなど、誰もが気軽に訪れやすい場所へと生まれ変わっています。
また、庁内にはデザインディレクションやクリエイターとのマッチングを担う「さがデザイン」チームが設置され、地域のデザイン力向上に取り組んでいます。
2024年には「SAGA DESIGN AWARD」も始まり、モノだけでなくプロジェクトそのものを評価する仕組みを通して、佐賀県のクリエイティブ自給率向上も目指しているといいます。
デザインが行政の中で機能することで、地域の人や産業を巻き込む新たな循環が生まれそうです。
後半は、株式会社GKデザイン総研広島の代表取締役、彌中氏をファシリテーターに迎えてパネルディスカッションを行いました。
ディスカッションの途中では、市の職員や民間企業の方々の意見が交わされ、非常に有意義な時間となりました。
【彌中氏】普通の行政の方たちはデザインを活用することに対して敷居が高いと感じることが多いのではないのでしょうか。行政内でデザイン活用を推進する人達とそうでない人達の距離をどう縮めるか。
【新山氏】活用しようと頑張っている職員ほど、周囲から心無いことを言われてしまうことや周りとの温度差があるというパターンがよくあります。頑張っている職員たちを何とかしてあげたいと僕たちはいつも思っています。
【原田氏】そういった行政の職員はたくさんいます。自分は彼らを繋げて、相談できる場を作ることで、もっと活躍できる環境を提供したいです。
【彌中氏】また、行政がデザインを活用するとき、お二人が縦割り行政の課に「横ぐし」を通すではなく「横やり」にならないように気を付けていることはありますか?
【原田氏】「デザインは万能ではない」ということを念頭に置き、余白を持たせる・ゆるさを持っておくことが横ぐしをさしていく方法の一つではないでしょうか。
【広島市役所の方】広島市の様々な事業に、どうすれば外部の事業者を積極的に巻き込むことができるのでしょうか?
【新山氏】肌感ですが、福井の事例では、行政主導よりも民間がやりたいことを行政が支える形がうまくいっているように感じます。
【彌中氏】広島市のデザイン施策は広域都市圏を超えて県外にも進出していますが、それぞれの近隣市町がデザインを間に挟むことで、もっと情報を共有し合えるのではないでしょうか。
地域の可能性を広げるためには、行政事業にもデザイン思考を取り入れた対話や仕組みづくりが鍵になると感じました。行政と民間が共に地域を育てていくには、今行政に何が必要かを考えるセミナーとなりました。
新山さん、原田さん、彌中さん、そして県内外からお越しくださったみなさま、本当にありがとうございました。
と、つくるを運営する広島市産業振興センターではデザインマネジメントセミナーはじめ、複数のセミナーを毎年開催しています。セミナー情報については、当サイトやフェイスブックページで随時お知らせします。