令和5年9月15日に広島市産業振興センターに大治将典さんをお招きしてセミナーを開催しました。洗練されたデザインのプロダクトは、国内海外問わずファンが多い大治さんですが、実は広島のご出身。当日は、デザイナーや企業の方など約30名のご参加をいただきました。
講演では「中量生産品の生態系」をテーマに、大治さんが手掛けてきたモノ・コトをお聞きしながら、商品のデザインのプロセスや、その先の流通まで考えた動き、海外販路のことや、新しく取り組まれていることなど幅広くお話いただきました。
大治将典
Oji&design 代表/手工業デザイナー
日本の様々な手工業品のデザインをし、それら製品群のブランディングや付随するグラフィック等も統合的に手がける。
手工業品の生い立ちを踏まえ、行く末を見据えながらデザインしている。
ててて協働組合共同創業者・現相談役
元々は建築から始めたという大治さん。その後独立して広島でグラフィックデザインの事務所を立ち上げ、自分たちで何か作ってみようと始めたのがプロダクトだったと言います。一番最初に作ったプロダクトが、鉛筆が収納できるメモ帳。作ったものを自分たちでパッケージして家が在庫であふれるほどだったそうですが、友人の営業で有名なスタイリストさんの目に留まり、全国のインテリアショップで取り扱ってもらえるようになったそう。
その体験で、ものが流通する面白さに気づき、プロダクトデザイナーに転向されたと言います。自分でやってみたことが、大治さんの原点だったのですね。
その後も数々のコンペにトライして受賞されたり、自分たちのプロダクトとしてけん玉を作られたりもしたそう。そういった実体験から、今後はメーカーと組んでものづくりをしていこうと決意され、上京してからのお仕事は今、私たちの知るところとなります。
「遠回りをしてきたつもりだったけど、グラフィックデザインをやっていたからこそ、いつの間にか総合的な力がついていた。」と大治さんは話します。確かに、基本的にはものが在りきでパッケージやパンフレットなどのグラフィックは一番最後が通例です。それを逆にして、グラフィックから始めることで、ブランドマネジメントができていると言います。
関わられているメーカーさんは、伝統的な産地で家族経営の所が多いようです。彼らの当たり前は、時に私たちにとっては特別なものになることも。例えば、失敗とされる色が、逆にとてもかっこいい色だとか、メッキをかけない質感の方が経年変化を感じられる良さがあったり。「伝統を守ることも大事だけど、マイナスの見方だけではなくてこっちも良いんじゃないですか?」と、個性を活かしたものづくりを実践されているお話は参考になります。
そういった個性があるものが活きる場所を作るべく、流通経路として見本市まで立ち上げてしまったのが大治さんの大きな功績の一つ。規模感やトーン&マナーが整っている出展者が集う見本市を開催することで、関わっているメーカーさんの販路もでき、ブランドが軌道に乗ったと言います。
今日のセミナーにも、大治さんの主催する見本市に出展されたデザイナーさんも来られていて、話が盛り上がっていました。
大治さんがものづくりで大事にされているのは、手は介在するけど、ちゃんと量産品であること。「ものが売れないと、産地が消滅するし、地域の活力もなくなってしまう。中量生産のメーカーが増える方が日本が元気になる。」と話します。現に、大治さんの関わられているメーカーさんでコロナ禍でつぶれたところはなく、逆に最高売上を更新したところもあるそう。
「良いものを作って満足していてはだめで、流通するところまでやらないと、ものづくりが続けられない。広げることに力を使って、流通してこそのものづくり。」と力強く話す大治さんの言葉に、伝えることの必要性を強く感じました。
最後は、「苦しいことは沢山あるけれど、面白いことができる時代だと思う。」という言葉でセミナーを締めくくっていただきました。
その後の質疑応答でも、沢山の質問が飛び交い、ここでしか聞けない話を聞かせていただくことができました。ものづくりに携わっている方にとって、大変参考になるお話を伺うことができました。大治さん、貴重なお話をありがとうございました。
と、つくるを運営する広島市産業振興センターではデザインマネジメントセミナーはじめ、複数のセミナーを毎年開催しています。セミナー情報については、当サイトやフェイスブックページで随時お知らせします。