事例 ハツカイチリソース
宮島を対岸に臨む大野が拠点のはつはな果蜂園さんは、宮島や江田島など広島県内数か所に養蜂場を構え、その場所ごとのはちみつを採取して販売されている養蜂家さんです。江田島ではミカンとレモンの栽培もされ、養蜂だけに留まらない活動をされています。代表の松原さんとは以前とつくるの紹介で出会い、養蜂を通した地域環境への思いが深い方だなと思っていました。その時は仕事には繋がらなかったのですが、今回新たに、はちみつと唐辛子を使った加工食品を作られるとのことでパッケージデザインのご依頼をいただいたんです。はちみつの生産者さんがこういった加工食品を作ることは珍しいケースだなと思ったのと同時に、一度お会いしたご縁から、こうやってまたご連絡いただいた時はすごく嬉しかったですね。
初回の打ち合わせ場所は大野にあるリストランテトーマスさんでした。以前からトーマスさんの評判は聞いていて、シェフである増本さんも絡んでいるプロジェクトだということを知り、これはとんでもなく良いものができるなとワクワクしたことを覚えています。
新しい加工品は、カキフライに合うスイートチリソースということで、これまでに見たことのない衣をまとったトーマスさんの定番カキフライにソースをつけて試食しながら、商品にかける思いや地元廿日市に対する思い、商品のネーミングやデザインのご要望など、内容の濃いヒアリングをさせてもらいました。
味は増本さんが主体となって開発し、関係者で色んなパターンを検討されたそう。出来上がったソースの約70%がはちみつという、かなり贅沢な配合で完成した逸品です。
商品の名前は『ハツカイチリソース』。廿日市への思いと、松原さんが地域へ恩返ししたいという気持ちが現れているストレートなネーミングですよね。地形的に山と海が近いこのエリアでは山々の栄養分が広島湾に注ぎ込むことで豊かな海が育ちます。山側で育んだハチミツと唐辛子を、海の名産であるカキにあわせて美味しく食べられるソースがあれば、さらに廿日市を盛り上げられる名物となり、地域のみんなが誇れるものになりますようにとの思いも込められています。
唐辛子を作っているのは、松原さんと同じく廿日市で就農しているすずきエスニックファームの鈴木さん。生産者さん同士で、はちみつの『スイート』と唐辛子の『チリ』を原料とした甘くて辛いスイートチリソースを作りたいという構想を1年位温めていたといいます。地域の方がつくる、地域を盛り上げるための名産品がこうやって形になったのも、松原さんの強い意志と仲間たちの協力があってこそですよね。
パッケージデザインに関しては、絵図屋らしい手描きのイラストで、中に何が入っているか一目瞭然にしてほしいというオーダーをいただきました。かっこつけたデザインではなくて、使っている食材や生産者さんに思いを馳せながら素直に描く。そうすることが一番大事で、イラストを描くときは思いを込めないと良いもの、良いことにはなりません。巻紙の形は、はちの巣の六角形を二つ組み合わせたオリジナルで作りました。
何十年とこの仕事をやっていますが、僕は味に嘘はつけないので美味しくないものをデザインで何とかすることはできません。クライアントの思いを聞いた上で、この人には絶対に成功してほしいと思ったら、こちらもそれをイメージしながら作るので、必ず商品は当たる自信があるんです。今回もそんな確信を持って仕事に取り組むことができました。
はちみつと唐辛子を使ったカキフライに合うソース、ということで試食から始まりましたが、正直最初は本当に合うのか疑問だったんです。でも食べた瞬間のファーストインプレッションから、後味まで含めて口の中で味がすごく変わる、辛味も含めてそれがとてもくせになる美味しさで、今は一番のファンですね。
この商品が他と違うのは、一般にただ単に売れるようにしたい、ということではなくて、廿日市という地域に貢献したいという将来的なビジョンがあることなんです。「廿日市のカキフライは廿日市でできたスイートチリソースで食べるのが定番!」と町全体でテーマのある料理を楽しむことで、町がもっと盛り上がるはず。色んな飲食店でも使ってもらえる愛されるソースになれたらという松原さんの思いが届けばいいなと思います。ハツカイチリソースが、まずは地元から根付くことで、広島県やその枠を超えて将来カキフライを食べる時の普通になる日がくればいいなと僕も願っています。
絵図屋はグラフィックデザインを中心にして、店舗のデザインやディスプレイ、ある時は壁画を描いたりもする、要するになんでも屋です(笑)。飲食店のブランディングや空間デザインは数多くやらせてもらっていて、今回のような食品パッケージのデザインの仕事も多いです。自分も食べることは大好きなのでありがたいですよね。一期一会の出会いも多い中、長いお付き合いの企業さんだと40年位一緒にやらせてもらっている所もあります。
絵図屋らしい特徴なのは、今の時代でもやはりアナログのグラフィックが得意なこと。その中でも自己満足になってはいないかを問い続けながら、自分にしかできない表現で、お客様のために思いを込めて良いものをつくっていきたいです。
グラフィックのデザイン、イラストレーター、写真家
開業・開店のロゴデザインから、DMなどの印刷物ツール制作、
店舗デザイン、コーディネイトから施工、ペイントまで自ら手掛けています。
広島市中区広瀬町3-24-301