事例 たのしいきもの 叶や 店舗什器
たのしいきもの 叶やさんは、戦後間もない昭和22年創業の呉服屋さんです。広島を代表する商店街『本通り』の入り口に約50年間店舗を構えられ、広島の方なら誰もがお店の前を通ったことがあるのではないでしょうか。長年この地で商売をされてこられましたが、建物の老朽化や近年の本通りのテナントの変化により、移転するというご決断をされました。移転先である並木通りの物件を決められて、新店舗の内装や設えをさあどうするか、と言う時に不動産屋さんにご相談されて、紹介されたのがSWITCHだったそうです。その方とは僕もお付き合いがあって、これまでの実績をご存じだったんですよね。ご縁をいただいて、桑原専務と出会い、移転のプロジェクトがスタートしました。
まずはどういった商売をされているかをヒアリングさせていただくところから始まりました。着物を中心に、帯締めや小物類を取り揃えておられ、広島ではここでしかお取り扱いがない今でいうセレクトショップのようなお店、そして日本の文化や色彩感覚を楽しめる美術館のような場所と理解した上で、どういった店舗にするか検討していきました。
長く営まれてきて元々顧客さんが多い商売です。環境が変わっていく中で、移転されても叶やさんのブランディングをきちんと守りながら、なおかつ、並木通りという立地になることで、若い方にも日本の伝統文化を知ってもらうきっかけとなるように間口をしっかりあけて入りやすい入り口にしました。これまで接点がなかった方とも、新しい接点が生まれるような店舗を目指し、次世代に向けての呉服屋の在り方をご提案したところ、気に入っていただいたのを覚えています。
また、これまでの本通りの店舗を訪問して感じたのは、店の内装や使われている素材、店内の動線など、とてもうまく考えられていたこと。先代が設計士に依頼されて作られ、30年位前に『蔵』をテーマに改装されたそうで、かなりグレードの高い店舗だなと感じました。移転先は、面積としてはこれまでの店舗の1/3と狭くなります。これまでの飾り付けや道具を使ってしまうと見られる商品が少なくなってしまう。そこで、僕らとしては、以前のような贅沢な作りではなく、和のエッセンスを残しながら収納とディスプレイにハイブリッドな機能を持たせることで、新しい叶やさんを作らないといけないと思いました。
僕らの仕事で一番大事なことは、環境の良さや建物の良さを活かすことだと思っています。新店舗は1986年に建てられた特殊なRC造の建物で、壁や天井もコンクリートでしっかりした作り。今回建物自体にはあまり手を加えずに、基本そのまま活かし、建具と什器に機能性と自由度を持たせることで空間構成をしています。
店舗がコンパクトになる分、収納はかなりこだわりました。置いたまま見ることができる角度をつけた棚や、着物と帯をかけて飾れる引き戸、収納でありながら展示にもなるそれぞれ二つの役割を持たせました。
また、畳をはめ込んだオリジナルのパレットは、並べて置くと靴を脱いで上がれる畳のスペースに、重ねておくと展示台にもなるように工夫して作りました。玄関のファサードは大きくとり、外から中の様子が見えやすいガラス扉にし、床色は通りの色に揃えることで、内と外の境界をぼやかして入りやすくしています。
販売のプロである桑原専務が、お客様とのコミュニケーションの中でこうしたらよく見えるという知見をお持ちなので、それに合わせてハードで表現した時、何が最適かを意見交換しながら構造的な部分を作っていきました。売るプロと作るプロのお互いが知恵を出し合うからこそ、良いものができたなと実感しましたね。結果的に、「建具が入る分もっと狭く感じるどころか、鏡をつけて広く見せながらもすっきりとして、想像以上の店舗ができた」と喜んでいただきました。
ご依頼いただいてから約半年後には移転されるという、かなりタイトなスケジュールでしたが、イメージの共有ができて、目指しているところがブレていなかったのでスムーズに進めることができたと思います。移転後は、本通りにいた頃と比べ、人通りが少ない分ゆっくり見てくれる方が多いようで、初めて入ってこられるお客様も増えていると聞きます。これまでのお客様ももちろん、新しいお客様との出会いも楽しみですね。
SWITCHは、広島を拠点とする建築設計デザイン事務所です。建築と言っても幅広く、店舗・住宅・新築・リフォームなど用途問わず様々な仕事を承っています。施主さんによってスタンスは様々ですが、まずはざっくばらんに商売のことやその成り立ち、どんな思いでされているか聞かせてもらいます。何を大事にされているかが分からないと、価値観が読み取れないので、しっかりとコミュニケーションをとり、目指す世界観を明確にします。僕たちは自分の作品を作るのではなく、お客様の商売がハードもソフトも含めてうまくいくことが重要。費用対効果を出せるようお手伝いをすることで、長いお付き合いができると思います。
長く仕事をしていますが、SWITCHってこんなイメージよね、と作風が限定されるのは好きじゃないんです。同じようなデザインではなく、1個1個のプロジェクトで出会うテーマを解き明かしながら、これまでとは違うものができたよね、というようなサプライズがあった方が面白い。これからもいろんな経験を積んでいきたいですね。
SWITCH&Co.では、ジャンルやボーダーを飛び越えて生まれる新しいアイデアをクライアント様との対話の中から導き出し、便利さの追求はもとより、豊かさを感じ永く使っていただけるデザインを提供したいと考えています。
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