事例 コイミライプロジェクト
JR西広島駅と広電の駅が交差する、広島市の西の玄関口である己斐。地元の人には己斐という地名で浸透していますが、今はJRの駅名が西広島となって己斐という呼び方を知っている人は少なくなってきています。駅前の再開発が検討される中、昔からあった広電の商業施設の跡地に暫定的にコイプレ(KOI PLACE)というコミュニティ広場ができたのが2020年のこと。
コイプレの芝生広場では色々なイベントを開催されていて、僕も出店させてもらったご縁で、広電の前田さんと知り合いました。丁度プロジェクトを構想されている時で、お声がけをいただいて、僕もプロジェクトに参加することになったんです。
前田さん的には己斐というエリアを盛り上げて活性化させることで、広電に乗る人も増え、結果的に会社のためになる、という大きな観点で動かれているんです。確かに町が衰退すると、会社も成り立ちませんよね。そういう意味で町の活性化に尽力することは、広電さん的にもこれまでにない地域との取り組みだそう。これを総称して『コイミライプロジェクト』として地域の未来を考えながら継続的に己斐を活性化させるプロジェクトを立ち上げました。
僕はクリエイティブディレクターとして関わらせてもらっています。パーマンの事務所がコイプレから歩いて5分というご近所なこともあり、前田さんとは常にリアルで色んな会話をしていましたね。
プロジェクトの中で、何か日常的な楽しみを持てる物、己斐を代表するお土産的な物が何か作れないか、と話し合う中で「ラムネっていいんじゃない?」となり、生まれたのがコイラムネです。地ビールならぬ、ご当地ラムネというジャンルは確かにあるし、昔からあるラムネはレトロな雰囲気の己斐の町にもスッと馴染み、老若男女みんなが楽しく飲める。コイラムネの存在自体が「何これ?」と会話が生まれるきっかけにもなりますしね。作って売って終わりではなく、ラムネの売り上げの一部を使って、町の課題解決につながるような仕組みを作ろうというプロジェクトです。地域で作って、地域で消費し、それが地域の価値を高めるという地域経済の循環システム作りを目指しています。
コイミライプロジェクト全体のコンセプトは『未来感』。とはいえ、やはり古い町なので、いきなりとがった未来感は皆さんの共感を得られません。ちょっと想像できる、遠くない未来感を目指しています。
プロジェクト全体のシンボルマークでもあり、コイラムネのラベルにもなっているのが楕円形のキラキラしたホログラフィーのマーク。楕円形は色々なヒトやコトのつながりをイメージしていたり、循環するという思いも込めています。ホログラムの印刷で未来感を表現しています。レトロなラムネ瓶に、透明感と反射が目を惹くホログラムのマークで未来っぽくなりました(笑)。
ラムネの後、オリジナルのクラフトビールもできました。その名も『盆栽ラガー』。知らない方も多いのですが、盆栽は己斐が発祥の地と言われているんです。歴史文化を知ってもらい、わが町自慢ができる商品として話題になっています。
作った商品をお店に並べるだけではなく、自ら売りに行ってPRしようと考え、屋台什器も作製しました。自転車でこいで動かせる什器は自家発電機能も兼ね備え、まさに未来の屋台という感じです。置いているだけでもインパクトがあるので、プロジェクトの動きを見える化できるアイテムですね。
地元の方には大分浸透しているコイラムネ。まだまだ流通の課題はありますが、今後事業として自走していけたらいいなと思います。
僕にとって地域活動の中で、地域のプロダクトを作るのは初めての経験でした。プロジェクトには沢山のクリエーターや地域の商店連合会の方が関わっています。何をどうしていくかは、誰か一人が決めるのではなくて、とにかく対話で方向性を決めていくのが面白かった。町のために本気で言い合えるし遠慮がない(笑)。僕はその意見を基に、消費者にどう伝わるのが良いかを考えてまとめる役割だったかなと思います。前田さん曰く、コミュニケーションディレクターですね。
このプロジェクトを通して、己斐という町に愛着を持ってくれる人が増えるといいなと思いますし、実際に来てもらいたい。そんな面白い己斐の未来を、地域のみんなと描いていきたいです。
パーマン自体も己斐を拠点にしているご縁もあって参加させてもらったプロジェクトですが、ローカルのことを知っているデザイナーがローカルのデザインをするのって、最強なんじゃないかと実感しています。作る側が内部側に入っていることで本質を理解しているので、話が速くてできた時のズレがない。
また、これまで関りがなかった地元の方たちと知り合えて、プロジェクトを通してデザインの力を理解してくださいました。そこからのつながりで、近所に新店舗を出すからと、ロゴやチラシなどのデザインを依頼いただいたりと広がっています。
なんといっても自分の周りを自分事として、自分達で良くできることは幸せなこと。地域の人が地域を盛り上げるのが一番力を発揮できるんじゃないかなと思いますね。
デザイン事務所兼、シルク印刷のできる作業場を運営しています。自社設備を一般の方にも開放していますのでお気軽にお越しください
広島市西区己斐本町1丁目8-30 3F