事例 亀甲名栗木製パームレスト
松葉さんが、僕の盆栽を買いに来てくれたのが最初の出会いでした。僕はクリエーティブディレクター・アートディレクターとしての仕事とは別に、盆栽家としての活動もしていて、それを松葉さんがご存じだったんです。当時、松葉さんが作られていた木製iPhoneケースを展示販売される時のディスプレイとして盆栽を飾りたいというお話で、知人を通じて購入したいと連絡をくれて訪ねて来られました。そこから知り合って、その後も何かと折を見ては新商品のサンプルを見せに来てくれたりだとか、逆に僕が松葉さんの商品を購入させてもらったりと、交流が続いていたんです。
今回の商品「松」「松2」はキーボードに付けるパームレスト。パームレストとは、キーボードの手前に置くクッションになるもので、キーボードを打つ時に手のひらを置くことで手首の疲れ軽減になるアイテムです。一般的にも様々な種類のパームレストが販売されています。松葉さんと言えば、自社商品として制作、販売されている木製iPhoneケースが有名ですが、元々の本業は自動車関連の精密木型を作る仕事。しかし、コロナ禍の影響を受けて厳しい状況になり、何とかしなければとAirPodsイヤホンケースのクラウドファンディングをされた時、匿名で届いたメールに「HHKB(※)製キーボードのパームレストを作ってほしい」と書いてあったそう。実は前々からパームレストを作ってみたいと思われていたようで、そのメールに背中を押され、製品化を目指すことになったと言います。
※HHKB
株式会社PFUより販売されているコンピュータ用キーボードでHappy Hacking Keyboardの略。
HHKBのキーボードは、キーボードの中でも最高級。エンジニアやプロゲーマーなど、愛好家が世界中にいる程、熱いファンがいるそう。それに合うパームレストで、他社のものとどう差別化するか考えた時に、木の板の表面をノミで削る伝統的な名栗(なぐり)加工の技術で、亀甲文様を施したところ、見た目にも美しく、使い心地も凹凸が気持ち良いと評価をもらえて、商品化が決定したと言います。
価格は3万~5万円程度と、松竹梅で言うと明らかに松のランク。松ランクに見合う高級感のあるパッケージを作りたいと、ペンギンに相談に来られました。商品のランクも松なら、松葉さんの名前も松、僕の盆栽も松、ということでドンピシャリとはまり、商品名も「松」で決定しました。当初から海外ユーザーも視野に入れていたので、あえて日本語名の「松」はかっこいいですよね。
デザインの要望としては、YouTuberに紹介してもらう時のために、箱の開閉に工夫してほしいこと、和風な感じだけど、海外に通用するようなクールな感じにしたいとのことでした。ペンギンの過去の作品や受賞歴も見られて依頼いただいていましたし、僕の作風もご存じだったので、信頼してすべて任せてくださいました。
結果、ビジュアルには印象的な盆栽を使用し、箱はスライド式でスマートに開けられるようにしました。開けた時に商品が見えると、まるで盆栽の鉢のようにも見える仕掛けです。パッケージの紙や、白い箱が汚れないように印刷面だけニス引きして表情を出す印刷にもこだわりました。
完成した商品は、お披露目で出展したキーボードメーカーの展示会で初期ロットが完売する人気ぶり。今も継続して売れていて、パッケージの増刷発注をいただいています。
「松」の後に、違うメーカーのキーボードにも対応するパームレストとして、「松」より長いサイズのバージョンもリリースされました。2番目の商品だから「松2」で「マッツ―」と読ませる遊び心を加えています。「松」はストレートに僕の盆栽をモチーフにしていますが、「松2」で同じことをやってもつまんないよね、というご意見番である妻の指摘もあり、印象的な松の盆栽はそのままに、スタッフの谷が日本画の南画風に松を描きました。その枝には亀甲名栗の画像を入れ込み松の肌に見立て、進化させたパッケージが完成しました。
また、広報のためにリーフレットも制作させてもらいました。モデルがおふざけで細長いパームレストをギターに見立て弾いている風で、やんちゃで楽しいイメージに仕立てています。ちなみにこのモデルは以前うちで働いていたスタッフなんです。
今回は松をテーマに、商品やテイストがピッタリはまった仕事になりました。松葉さんがデザインに対する意識をきちんと持って発注いただき、思いを伝えてくれたことが良い結果につながったと思います。
商品は松葉さんの公式オンライン、キーボードメーカーのオンライン、ふるさと納税などで販売されていて、会社の存続をかけた松葉さんのチャレンジは、大成功と言える結果となっています。当初は補助金案件で最初から予算が決まっていた仕事ですが、この商品の魅力や松葉さんの人柄で頑張らせてもらいました。今、新商品も検討されているので、ペンギンを良き相談相手としてもらいながら、デザイン面でサポートし、今後の事業の広がりを後押しできたらと思います。
会社は今年で25年目。大手広告代理店や印刷会社の仕事もありますが、時代の流れもあり、最近は直接のクライアントが増えています。小さくてもこだわってものづくりをしている所からのご依頼もあります。最近はウェブをはじめ、動画やSNSが強い時代。だからこそグラフィックにこだわる出版社とのお付き合いもありますね。グラフィック以外でも、ブックデザインや店舗設計、インテアリア、ブランディングなど多岐に渡ってお仕事をさせていただいています。
(谷)
私は入社して16年目。デザイナーとして、デザインやイラストを描くなど、ペンギンの仕事のほとんどに参加していて、私自身がアートディレクターを務める場合もあります。長年居て思うペンギンの特徴は、仕事に対する実直な姿勢と、手を抜かないこと。アーティスティックな中村のサポートも楽しいですし、色々挑戦できる環境も自分には合っていると思います。中村に盆栽家という特徴があるように、私も何か特徴を持ちたいと思っていて、私のことで言うと、昔やっていた刺繍を組み合わせたビーズアートを作っています。最近、中村の個展で一緒に展示させてもらったり、少しずつ活動を始めています。
今後ペンギンとしては、やっぱり楽しいことがやりたいねと言っています。去年事務所を移転したんです。前の事務所も人が来てもらって楽しめる事務所にしていましたが、「今の事務所の方がいいじゃん!」と言ってくださるお客様が多いですね。
昔は大きな仕事や儲かる仕事を目指した時代もありましたが、今は柔らかく変化しています。時勢柄グラフィックでどこまでお手伝いできるか分かりませんが、切磋琢磨しながら「何かひっかかりのあるデザイン」を作ることで、ものが売れたり人が動いたりするお手伝いができたらいいなと思います。
「デザインは生き方」。
これまでの経験を生かして、
グラフィックデザインだけでなく、
衣食住全般でお客さまとエンドユーザーに
響くことをご提案します。
広島市安佐南区高取南2丁目11-5