事例 Mランド モニュメント
Mランドは島根県益田市にある合宿の方をメインとした自動車教習所です。森の中にある施設には、大きな木が植えてある教習コースがある他、宿泊施設、占いカフェ、コンビニ、ギャラリー、テニスコートなどがある、とてもユニークな教習所。県外からの生徒さんが9割と、わざわざここを目指して来られる学生さんが多いそうです。現小河社長の祖父である創業者が、せっかく全国から来ていただくなら、ただ2週間免許取得するだけではなく、世界一のお土産を持って帰ってもらいたいという思いで、勉強以外にも色んな体験をしながら思いやりの心を育んでいただく、という形で事業をされています。
Mランド内にはゲストを楽しませるために、前社長である創業者の思いがあふれた看板が沢山あります。前社長がご存命の時から、フタバとして看板制作でご縁をいただいて、今の小河社長になられてからも、声を掛けていただいています。
最近ではMランド内にあるバス停の看板をリニューアル制作させていただきました。これが面白くて、角度によって見え方が変わるバス停なんです。設置する格子に合わせてギザギザの折をいれた設計は、総務の森下部長さんのアイデア。1905.5.27と名付けられたバス停は、バスが来る方から見ると普通のバス停、反対面からみると日露戦争に日本が勝利したことが描かれています。もし日本が負けていたら今のような日本はなかったというような歴史を知って、日本に誇りを持ってほしいという思いを表現しています。
今回の事例であるモニュメント制作は、創業60周年を記念した大切な事業の一環でした。Mランドは教習所内に沢山の胸に響くような言葉が目に見える形で掲示されているように、言葉をとても大切にしている企業。前社長が当時の時代に求められる価値観を表現した「楽美愛真」という造語を作り、その文字を看板にされていたんです。この看板が古くなって朽ちてきたので、取り替えないといけないタイミングで、今の社長が、今の時代にあった新しい造語を考えられました。それが「詩舞奏演」という言葉です。日々を丁寧に生きることが美しい詩となり、世のため人のための行動と立ち振る舞い、相手を思いやり発する言葉を奏で、生きることそのものが芸術のように人生を演じる、という、生き方として大切にしてほしいことを表現されています。この言葉を教習所内に見える形で設置したいということで、看板制作のご依頼をいただきました。
当初、文字を立体にして立てるような看板で考えていたのですが、森下部長と話す中で、ただの看板では面白くないからモニュメントにしようという話になりました。そうしたら、森下部長が自分で粘土をこねて、形を作ってくださったんですね。そこから色々動き出して、素材はFRP(強化プラスチック)にして、立てる看板ではなく、置き型のオブジェのようにしようということになりました。我々看板屋の頭では、看板は設置するものという固定概念がどうしてもある。そうなると、設置するための基礎工事や骨などの設置費用が余分にかかるんです。設置がいらない置き型であれば、その分の費用をすべてモニュメントに使えますし、置く場所を変えることもできる。結果、80cm角を基本とした、4つの形のモニュメントに決定しました。我々にとって、固定していないFRPを作ったのは初めての経験でしたね。
すべてのモニュメントは座れるように森下部長が形を決めて、我々はそれを図面におこし、制作していきました。「詩舞奏演」の文字も書道の師範でもある森下部長の手書きをスキャンして出力しています。出来上がったモニュメントは、カラフルで目を惹きますし、生徒さんが興味を持って座ってくださっているのを見ると嬉しいですね。
毎回思うのが、森下部長のアイデアは本当に素晴らしくて、正直僕らはそれを実現しただけ。森下部長からは「協業ではなく、協働がしたい」と、我々の技術を信じてくださっているからこそのオーダーだと感じます。
こういう特殊な仕事をすることで僕らも期待に応えるために成長できる。勉強させていただきながら今後も一緒に協働させていただきたです。
60周年記念では、創業者の胸像も鋳造で制作させてもらいました。普通は銅像というと手を下ろして威風堂々とした風格を出して作りますが、この胸像は創業者がかぶっている帽子を掴んで「よう元気かい?」と語りかけてくるような、柔らかく、親しみやすさのある胸像となっています。そんなこれまでの概念を覆すような発想でものづくりのオーダーをしてくださるMランドさんは、自動車教習所の枠さえも超えている会社だとつくづく感じています。それは先代の頃から長くお付き合いさせてもらっているからこそ、企業への理解が深まっているから。運転技術だけではなく、變(やわらぎ)の心、Mランドさん風に言うと、人が生まれ持っている優しい心、を育んでくれる、面白い場所づくりのサポートをさせてもらいながら、良い関係性を築いていきたいですね。
フタバは益田市を拠点とし、看板や立体造形、FRP製造などを手掛けるサインデザインの企画製造を中心とした事業をしています。サインは基本的には建設現場とセットで、工事の中に下請けとして入ることが多いので、Mランドさんのような直接のご発注は、自分たちが主体で動ける良い機会をいただいていると思います。
これからの時代は、看板だけをやっていてもだめで、時代のニーズに合うデザインを含んだ造形を、自分たちなりに表現して作品を作っていきたいと思っています。今回Mランドさんのモニュメント製造を手掛けた弊社の職人はかなり勉強して、FRPをはじめ色んな技術に精通しています。コンピューターやAIで大量生産のものはありますが、最終的に人間の手で作る、ということは絶対になくならない。表現し、創造する仕事を通して、さらに技術を磨いて、お客様に選ばれる企業になりたいですね。
立体造形を中心としたデザイン・製作施工。
想いを形に 楽しいを形に。景観を含めトータルに考えてデザインします。
島根県浜田市片庭町84-4