事例 つまんでちょんまげ
3年程前、私が東京の広告代理店に勤めていた時に岩国市のプロポーザル(※1)で「岩国土産の統一ブランドを作りたい」という案件がありました。私が岩国出身ということもあって岩国とのネットワークがあるので、プロポーザルの情報を入手し、広告代理店として統一ブランドのコンセプトやネーミング、パッケージデザインなどを提案して、採択していただきました。それが岩国土産の新ブランド『つまんでちょんまげ』です。当時は広告代理店として受注しましたが、現在も広告代理店の元で株式会社BRODGEとしてお仕事をさせてもらっています。
※1 プロポーザル 地方自治体などが業務を委託する上で、複数の事業者から企画提案を提出させ、提案内容を審査し、企画内容や業務遂行能力が最も適した者を選定する方式のこと。
ご提案したブランドコンセプトは「岩国の日本酒に合うおつまみ」です。ものづくりをする際、ゼロベースで全く新しいものを考えるのではなく、僕はその地域の資源を活かすことで発想していくことを心がけています。今回の岩国の資源といえば、世界に誇る日本酒の文化。獺祭や雁木、金雀など、日本だけではなく世界が注目する日本酒が岩国にはあります。その岩国の財産である日本酒に合うおつまみをメインにすることで、求められていることの最適解につながると思いご提案していきました。
プロポーザルに向けて市場調査した際に感じたのが、他の都市に比べて、岩国を代表するお土産品が思い浮かばないことでした。広島ならもみじ饅頭、仙台なら萩の月などは有名ですよね。岩国には錦帯橋や岩国城という大きな観光資源があるのに、岩国に直結するようなパワフルな商品がない。じゃあどうすればいいんだろうと考えた時、『つまんでちょんまげ』というブランド名のシンボルになるようなキャラクターをご提案しました。岩国の城下町にいるような、お酒好きな侍をイメージして、頭のちょんまげがとっくりになっているという面白い発想です。目を惹く面白いキャラクターと共に、パッケージには金色を使って店頭でも目立つと同時に高級感を出して、その商品を選びたくなるようにデザインしています。
外側のデザインも大切ですが、肝心なのは中身です。採択されてから、発売までのスケジュールが短かったのもあり、新しく何かを作るのではなく、岩国の事業者の方がすでに作られているものをブラッシュアップして統一ブランドに束ね、総合力でマーケティングしていくことになりました。もちろん、素材は岩国のものを使い、鮎、岩国れんこん、由宇とまと、岸根ぐりなど岩国の名産をどの商品にも必ず入れるようにしています。岩国食材のPRにもなりますし、農家の方や製造販売の方への経済効果が生まれることを期待しての施策です。岩国の素材を使ったお土産品開発をする、というテーマで岩国市が製造事業者さんを毎年募集しているので、今後も継続的に関係者を増やし、地域の皆さんの売上にも貢献していきたいですね。
2年程テスト販売をして検証した後、正式な発売が2021年10月でした。その際、大きなプロモーションを展開すべく、YOUTUBE動画を作りました。岩国市出身の俳優、岡本信人さんを起用し、つまちょん侍に扮していただき動画配信したところ、地方自治体の動画にしては異例の24万回再生と話題になりました。ブランドデビューから1周年の今年10月にも新作動画を制作してPRをかけています。この動画、インパクトあり面白い内容なんです。岡本さんのキャラクターが『つまんでちょんまげ』ブランドと商品のPRだけではなくて、岩国市が面白いことにチャレンジしている楽しい所という、岩国市のPRになっている気がしています。今後もブランドの枠を飛び越えて岩国市にたくさんの人が訪れる効果につながるといいなと思います。
発売してからすぐは、ちょうどコロナの時で、飛行機も止まり、観光が止まり、売り上げが厳しい時期もありました。今は人も戻ってきて、かなり売上が伸びているようです。プロモーションも功を奏して、山口県のメディアやテレビのニュース番組に出るなど結構話題になり、岩国市の担当者にも喜んでいただいています。
今回、一番大事にしていたのはコンセプトでした。単に岩国の美味しいものを探して売る、という発想ではなくて、日本酒に合うおつまみ、というコンセプトがあったから、コミュニケーションとして強く発信できたと思います。これからも岩国市を担うお土産ブランドとしての地域の皆さんと共に、長くサポートしていきたいと思っています。
2021年春に岩国にUターンして会社を立ち上げるまでは、東京で広告代理店に25年勤めていました。大企業との仕事が多かったですが、地方自治体の案件にも多数関わらせてもらう中で、素晴らしい観光資源を活かした地方の課題解決に面白さを感じていました。そして、これまで培ってきたクリエイティブのノウハウを活かして地域活性の力になれたらと、地元岩国で会社を立ち上げたんです。
BRIDGEという社名は、錦帯橋からきています。やはり地元に貢献することが会社を作った一番の目的なんです。錦帯橋の弧を描くようなロゴマークには、地域と日本をつなぐ、生産者と世の中をつなぐ、自分が色んな方とつながるというような、物事をつなぐことで、世の中のためになることをする、という思いを込めています。この場所で、どういう風に未来を作るか、色々チャレンジしていきたいと思っています。
撮影協力:岩国国際観光ホテル
デザインだけでなく、コトバを重視します。
ご担当者のお話をよくお聞きし、企業や商品のコンセプトを策定し、そのコンセプトをメッセージとデザインに落としこんでいきます。
山口県岩国市