事例 カンキツスタンド オレンジ
Staple(ステイプル)さんは東京と広島を拠点とするソフトデベロッパー。デベロッパーといえば大規模な開発などを思い浮かべがちですが、ステイプルさんはもう少しソフトなイメージで、場所と人に寄り添う街のコンテンツ作りをされています。4年前に生口島にある堀内邸という、島の人にとって大切な場所の活用事業者の募集があり、それにステイプルさんの兄弟会社が選定されたんです。その際、単に開発をするのではなく、島の人たちと一緒に、ここをどんな場所にしたいかを話し合う市民参加型のまちづくりのワークショップを開催されました。その時に、地元のデザイナーである私たちにも声をかけていただいて。それがステイプルさんとの出会いでした。
まちづくりワークショップは3年間継続され、ウェブサイトを私たちが制作させていただきました。この地域で作るものは地元のデザイナーにお願いしたいという思いも私たちにとって嬉しいことでしたね。最終的に、どんな町になりたいかのイメージイラストを制作したんですが、足湯がほしいとか、レモネードを子供が販売する場所があったら面白いとか、色んなアイデア満載の、ワクワクする未来予想図になりました。その時に描いていた、島の柑橘をPRできる場所を作るというアイデアを実現したいので相談に乗ってほしいと、ステイプルの小林さんから依頼されたのが2022年5月のことでした。
尾道に瀬戸田の柑橘を気軽に、キャッチ―に楽しんでもらえる場所を作ることが今回のプロジェクトの目的でした。ワークショップの中でも、瀬戸田のレモンは有名だけど意外とミカンが知られていないので、レモン以外の柑橘類をどうやって盛り上げるかという話があったんです。そこで、地元で柑橘を栽培されている農家さんと直接やりとりして、島を盛り上げるために柑橘ジュースを売り出すことにつながり、それを飲める場所も作ることになったそう。これが実現したのも、小林さんと島の人たちとの信頼関係がきちんとできているから。小林さん自身も、会社としても瀬戸田に移住されるほど、この地域に魅力を感じて、この地域を良くしたいという思いが強いからこそできたことなんだと思います。
お話を頂いた際に、場所は尾道駅の駅ナカであること、昼はジューススタンド『カンキツスタンドオレンジ』で夜は立ち飲み屋『気まぐれスタンドDAIDAI』という二面性を持たせたお店であることは決まっていました。そこから、具体的にどういうお店にしたいかを、小林さんにヒアリングして、デザインを詰めていきました。お店のタペストリーにもなっているメインビジュアルとしては柑橘のかたち。シンプルな形状ですが手触りのあるテクスチャーに仕上げています。これを逆さまにすると山と月が見えてきます。夜になって月が出ると、島からのイノシシがやってきて気まぐれにビールを飲み始めるという、1つのお店で2つのやりたいこと実現するお店のコンセプトをデザインに落とし込みました。また、デザインテイスト的には、洗練されすぎず、尾道らしいゆるさも感じられるような温かいデザインを意識しています。
そのほかにも、ショップカードやステッカー、Tシャツ、グラス、テイクアウト用のシールやメニューなど、グラフィックが関わることはデザインさせてもらいました。とにかく約2か月でお店を立ち上げるという短納期なプロジェクトだったので、どんどん話してどんどん決めていきましたね。メニューには柑橘の美味しさとバリエーションを楽しんでいただけるミカンジュースの飲み比べセットなどもあり、オープン後は狙い通り、観光客の方にも気軽に柑橘を楽しんでもらえていて嬉しく思っています。小林さんはクライアントではありますが、とても近い距離感でお仕事をさせてもらったので、私たちも一緒に立ち上げて運営している気持ち。今後も、デザインへの思いと結果を照らし合わせちょっとずつ形を変えながら良いお店を作っていくサポートをしていきたいです。
今回、私たちは「やりたいこと」をビジュアル化して可視化する役割を担わせていただきました。それは、クライアントさんの「やりたいこと」だけではなく、この地域の住人であり生活者としても毎日ここを利用する私たちの「やりたいこと」や「あったらいいな」でもありました。また、メンバーの水呉は実家がミカン農家だったことや、島の柑橘をネット販売する店長だった経験もあります。生産者の気持ちも分かるメンバーがいるから、作り手側から見てこうあればいいなという思いを翻訳して、良いことが起こりそうなものを一緒に考えられたんだと思います。
パンパカンパニは3人のデザインユニット。元々は同じ大学で学んだ友人同士です。大学卒業後、水呉が地元の三原に戻って地元の企業さんのグラフィックデザインの仕事を請けていたのですが、徐々に頼まれることが増えてきたこともあり、宮本と佐々木が加わりユニットとして活動することになりました。私たちが拠点にするこの町に合うのは、見て楽しく、ほんわかしたり、力が抜けて楽になるようなデザイン。自分たちで大爆笑して決めたパンパカンパニという名前ですが、これが自分たちを表現しているなと思います。人や町に対して温かいデザインを届けていきたいです。
その上で、大切にしていることは、自分たちの暮らし。デザインには商業的な面もありますが、最終的なエンドユーザーの生活にあるものです。それを作っている私たちが豊かじゃないとだめだなと。みんなが元気がでたり、ニコニコしちゃうような、場があったまるデザインが作りたいからこそ、私たちの暮らしを大切にしながら地域を良くする創作をしていきたいと思っています。
カンキツスタンド オレンジ 設計:Puddle Inc.
備後地域で活動中のデザインユニット。グラフィックデザインを主に、イベント空間やお店の外装などジャンルを問わず、まちを明るくするクリエイティブワークを行っています。
三原市西町2丁目4-39 暮らり2階