事例 QAMAR マルチウォータータンク
タンクを作りたい方がいるから相談に乗れませんかと「と、つくる」経由で連絡いただいたのがQAMAR(カマル)の二矢川さんとの出会いです。その二矢川さんに「と、つくる」を紹介してくれたのが、「と、つくる」にも掲載されているデザイナーのguideの久保さん。二矢川さんと久保さんは同じ呉市が拠点ということで知り合われていたそうです。以前からタンクを作りたかった二矢川さんですが、相談した経営者層の方々には「そんなの無理だからやめておけ」と言われていた中、久保さんだけが唯一「それは面白い!」と言ってくださった、と聞いています。
当初、二矢川さんはレトロなタンクを自分でデザインしようかと思われていたところ、久保さんから一過性で売るのではなく、長く売れる商品にするなら、俯瞰で見れるプロのデザイナーに頼んだ方が良いと説得されたそうです。そこで、私を紹介してくださったなんて、ありがたいご縁だと感謝しています。
今でこそカマルはウォータータンクですが、当初は灯油タンクを作りたいというご依頼でした。元々二矢川さんの本業はネイルサロン経営。彼女の古民家のサロンに、一般的なホームセンターによくある、青や赤の灯油タンクを置くと、インテリアにマッチしないと思ったことがきっかけだそう。デザイン性のある灯油タンクが6、7年前当時は世の中になくて、だったら自分で作ろうと決意されたそうです。私と出会った当初は、灯油タンクということでデザインをし始めたのですが、その途中で西日本豪雨災害を経験されることになったんです。二矢川さんの住む呉市は、しばらく断水が続いた地域でした。その時に灯油タンクを持って水をもらいに行く人もいて、その光景から、防災にも使えるウォータータンクへと思いがシフトしていきました。
私達としては、単純に灯油タンクを使う世帯が、ウォータータンクを使いそうなユーザー数よりも少ないと思っていて。例えば東京都内の高層マンションに住んでいる人が灯油は使わなさそう、だけどキャンプはするだろうなと。
今回、二矢川さんは個人で商品作りにトライされるのが初めてなので、経験も販路もゼロの状態からのスタートでした。金型を作るのにも結構先行投資がかかるので、使い手が限定されるニッチな商品よりも、多くの人の手に届くものから始めて、買ってくれる人の幅を広げてスタートするのはどうかというお話をしていたんです。そういったことや、災害からの実体験を踏まえて、ウォータータンクを作ることになりました。
灯油タンクで進んでいた頃、二矢川さんから機能面での要望は、家の中に置いてもいいデザイン性の高さと、液残りしにくいことの二つでした。既製品を色々買って検証しましたが、どうしてもタンク底面の角の所に液体が残り、最後はタンクを傾けて使うんです。ならば、最初から角をなくすのはどうかとなって。底面の面積が小さいと単純に液が集まりやすいですし、角がないから傾けやすいんですよね。また、多角形だったら液を入れる時に口が真上に来て入れやすく、面ごとに機能が付けられる。そうやって行きついたのが多角形容器というデザインでした。
その後ウォータータンクになったことで、中を洗えるようにすること、災害の経験からタンクの中に防災備蓄用品が入るようにするために、口を大きくしています。他にも、横にした時にスタッキングできるように水滴をイメージした凹凸を付け、置いた時にぐらつかないよう底部まで工夫して、タンクが完成しました。
完成した商品は、アラビア語で「月」を意味する『QAMAR(カマル)』というブランド名になりました。結果的に、アウトドアプロダクトして広い市場に受け入れられる商品になったので、カラーリングは森・砂・水を表現したナチュラルながら落ち着いた3色展開にしました。細部のディティールまでこだわって作れたのは、量産してくれる工場が金型の設計からできる会社だったので、私たちの細かい要望に対して技術の方が頑張ってくださったおかげだと思います。
カマルのブランドロゴや、販売するためのパンフレットなどのツールは、guideの久保さんにお願いしています。事業主・プロダクトデザイナー・工場・グラフィックデザイナーとが連携して、とても良い形になったと思います。
カマルの販売は、テストマーケティングを兼ねて、クラウドファンディングに出したのが最初でした。ありがたいことに非常に反響があり、当初の目標設定をかなり上回った500万円を超えるご支援をいただけた経験が、一つ確かな自信になったと思います。二矢川さんは今もネイルサロンを続けながら、カマルの営業に精力的に動いておられます。日本全国各県にカマルのお取り扱い店をひとつは置きたい、という目標を持って、車にウォータータンクを積みこんで営業に回られているようです。結構な割合で商談成功されていますし、逆にお問合せをいただくことも多いようです。
ご自身が作られたものを、ご自身が情熱を持って伝えられているという意味では結果も出されているので、今後もどんどん販路を広げていってほしいですね。
HEREDIA KOMIYAMA(エレディアコミヤマ)では、今回のような新ブランド立ち上げに係るプロダクトデザインのお手伝いをさせていただく仕事が多いです。プラスチック、木工、金属など、ジャンル問わずサポートできますが、社内だと何が良いのか分からないから新鮮な目で見れる外部の人に入ってもらいたいという会社さんとなら、一緒に面白いものができると思います。外国人と日本人のユニットで、多面的な見方ができるのも特徴です。
私が拠点にしているのは安佐北区飯室という山あいの町。目的にして来る場所ではなくて、千代田や豊平へ行くために通り過ぎる町なんです。2020年に妹が経営する美容院『草樹花』を、ここ飯室に作りました。私の隠れ目標は、ここが目的地になるお店。SNSのパワーもあってか、広島市内や県外からも、ここを目指してわざわざ車を走らせて来てくれる方が多いです。これは、どんな場所でも、どんなものでも注目してもらえるようにやれるという良い実験台。どんなにつまらいなと思うことでも、何か見方を変えたり、入り口を変えてみたら魅力的にできると思います。それがデザインを考える時の楽しさでもあるんですよね。
プロダクトデザインを中心に、企画段階から一緒に問題解決に取り組み、新しい価値や魅力ある製品が生まれるお手伝いをします。
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