事例 やみつきカシューナッツ
フィール代表の磯兼さんとはもう長いお付き合いになります。家がご近所で、僕の妻と知り合いだったので、僕も自然とつながったような感じです。廿日市にアパレルのセレクトショップ『PB CLOSET』をオープンされたのが2020年で、その前から10年位、自宅兼店舗として営業されていたんです。磯兼さんのセンス良いセレクトが評判で、たくさんの常連さんがついていらっしゃったようです。その頃から店舗の広報物を作らせてもらうようになっていました。そんな中で、新事業として始められたフード部門のパッケージのデザインリニューアルをしたいということで、私にご依頼いただいたのがこのプロジェクトの始まりです。
フード部門の一押し商品が、『やみつきカシューナッツ』です。皮付きのままローストした大粒のカシューナッツは、自然の甘さと絶妙な塩味のバランスが良く、カリッとした食感が癖になる美味しさ。私もやみつきで、よく購入させてもらっています。この商品ができたのは、磯兼さんのご主人が鶏糞を使った有機肥料をベトナムに輸出して農業指導をされていたのがきっかけだそう。ベトナムの農場でできたカシューナッツが非常に美味しいので、日本に輸入して販売されるようになったと聞いています。以前は他のデザイナーさんがパッケージを担当されていましたが、商品の値段が安いものではないので、もっと高級感を出したデザインにしたいというのがリニューアルのポイントでした。
制作の流れとしては、まず磯兼さんの好みを把握するためにデザインを8案程出しました。デザイナーさんによって案を出す数はまちまちだと思いますが、僕自身が1点に絞るより、色々考えながらアイデアを出すのが好きなので、複数案でお見せしています。以前からセレクトショップのリーフレットやポスター制作などの仕事をさせてもらっていたので、ある程度磯兼さんの好みは把握できていたこともあり、スムーズにデザインを決めていただけました。お店自体、シンプルで品が良く、磯兼さん自身もシックな装いの方なので、今回のパッケージも高級感のある黒をベースにシンプルにまとめています。
商品は、磯兼さんのセレクトショップでも購入できますが、販路は全国のスーパーや百貨店など多岐に渡っています。味が良いので、引き合いは多くあるそうです。
カシューナッツの他にも、同じ『やみつき』シリーズの『やみつきバナナチップス』のパッケージ展開や、輸入したベトナムのコーヒーのラベルデザインなども、トータルで任せていただいています。その他にも、商品のリーフレットなど細々したことも任せてもらっていて、今後の展開が楽しみなブランドです。
大企業だと広報がいて、代理店が入っていたりしますが、今回の案件は比較的小規模で、代表の方と直接やり取りできるお仕事です。先方も印刷物を作るプロセスに詳しい訳ではないので、僕がその都度対応する感じで進めています。僕自身も、独立後は一人で仕事をしているので、きめ細かく長期的に対応できる今のやり方が、お客さまにも、自分にも合っていると感じますね。
僕が思うデザイナーの役割は、「代わりに考える」存在であること。オーナーである磯兼さんには、事業に対する思いと、実行力はある。その思い描いていることを、会話の中で聞き出して、形にしていくのが僕の仕事です。これだ!という風な一択を出すというよりは、一緒に色々と考えていきたいタイプなので、相手の思うイメージや、方向性をどう考えているかはかなり探ります。
デザインと一口に言っても、フォント、イラスト、写真など様々な要素があります。その素材を集めてきて料理を作る感覚でデザインしているような気がしますね。僕の料理は、1年に1回だけ行くような高級フレンチではなくて、裏通りにあるちょっと美味しいものを食べさせてくれる洋食屋さんみたいなスタンス。「こういうもの作って」と言われたら、「じゃあこう作りましょう!」というような感覚です。気を張るのではなく、気軽に入れるお店でありたいなと思っています。
元々はエディトリアルデザイン(※1)を中心に、広島のデザイン事務所で働いていました。広告代理店を経て、2000年からフリーのデザイナーとして廿日市を拠点にして活動しています。昔から繋がりあるプロダクションから、現在も企業や団体の広報誌や冊子などの仕事をいただくことも多いですが、廿日市のローカル企業さんからのロゴや冊子、チラシ、パッケージなど、ある種何でも屋さんのように動かせてもらうことも多いです。意外と小規模で頑張っている方が多い町だなと思います。
長年デザインに携わっていますが、最近は本当に身近な情報が入ってこない感じがあるなと危惧しています。昔はフリーペーパーが家のポストに入っていて、それを見るとちょっとしたイベント情報がなんとなく知れたんです。今はそれもなくなり、新聞もとらない時代。スマホで情報を検索したり、スーパーのアプリ会員になれば情報が入るのかもしれませんが、自分からアクセスしないと情報が手に入らないのは課題もある。そこはやはり、誰でもアクセスできる紙媒体にも可能性はあると思います。ふと見つけるものとしては、紙媒体が多少なりとも役立つはず。両方をうまく取り入れてお客様のサポートをしていきたいです。
※1 エディトリアルデザイン
エディトリアルデザインとは、新聞や雑誌、書籍、カタログ、フリーペーパー、パンフレットなどの出版物に適用されるデザインのこと。
お客さまといっしょに、ああでもない、こうでもない…と悩みつつ、楽しくお仕事をさせていただいています。
廿日市市