事例 みたらしろっぷ
川中醤油さんは、これまでもドレッシングやタレの商品などのデザインを担当させてもらっていて、約8年位の長いお付き合いの企業さんです。今回、担当の増田さんから、新商品として甘い商品を出したいと相談を受けて、プロジェクトがスタートしました。初回のオリエンテーションでは、企画の増田さんと一緒に、味を作る製造の方も来られて、お二人がとにかく熱く商品について語られていたのを覚えています。これまで担当したドレッシングなどの商品は、王道である醤油の脇にあるものとして、川中醤油というブランドの世界観を支えるようなイメージで作ってきましたが、新商品はそれとは全く違うことをされたいのだなと感じて。自分も今までとは違うことをやらないといけないな、という気がしましたね。
商品開発は実に2年かけられていたそうですが、最初に決まっていたのはその味だけでした。とにかく甘い商品を作りたいという増田さんの思いもあり、商品名は「スイーツ醤油(仮)」だったので、まずはネーミングを検討しました。元々「アイスにかける醤油」「ヨーグルトにかける醤油」という甘い商品はあったものの、限定的過ぎたため終売となってしまった。それらを一本化して、新商品はリンゴ果汁が入っていて和にも洋にも合うことと、甘い味がちゃんと伝わるように、醤油屋の作る新しいみたらし味のシロップとして売っていこうという方向性に決定しました。だったらそのまま「みたらしろっぷ」が伝わりやすいねとなり、商品名が決定しました。ダジャレ感はありますが(笑)、分かりやすくて良い名前ですよね。
みたらしろっぷは、お餅やお団子はもちろん、パンやクラッカーと合わせても美味しい商品なので、これまで川中醤油をご存じない方にも気軽に手に取ってもらえるように、スーパー以外でも雑貨屋さんに置いても良いイメージでデザインを検討しました。
当初シロップ感が出るような取手付きの瓶を検討しましたが、工場のラインの問題もあり、瓶は小ぶりでかわいらしいものを準備してもらい決定。ラベルの提案としては、こうあったらいいよねという理想的なA案、現実的に落とせそうなB案、ひとひねりある変化球のC案と3案考えました。川中醤油さんのように大きな企業さんの場合は、会社の意思決定システムの中で社内調整しやすいようにご提案しています。
デザインする上で、僕自身が心掛けているのは、思っていることがあるクライアントさんの意見はなるべく全部汲み取るということ。今回は現実的なB案を詰めていく中で、イラスト、フォント、色など、かなりたくさんパターンを変えて見せています。頭で想像したことを切り捨てず、言ってもらったことを一旦全部形にして、ズレも含めて見てもらった上で納得して決めたいから。その作業を繰り返してベターなカタチを一緒に探っていくのですが、商品名の文字のカタチがなかなか決まらず、割と長い間トライアンドエラーを重ねていました。多分、増田さんの中に理想の文字のカタチがあって、そのカタチを探っていた感じです。その後増田さんから、文字を書いてみましたと、メールが送られてきたのです。
増田さんが筆ペンで描かれた商品名の画像を見て、正直最初は迷いました。お互い見ている方向性は同じでしたが、自分が作っている絵の中に、増田さんの文字を入れて、ちゃんと収まるのか、どう見えるのかと、デザイナーとして判断する必要があったんです。最終的には増田さんの文字で、バランスを整えて完成しました。お店に並んで良いカタチになるために、ここは絶対に譲れないということも当然ありますが、この商品に関しては、担当の人が自分で書いた、ということ自体に意味があると思いますし、それが似合っているんだろうなと感じますね。
発売して2年たっていますが、今もSNSでレシピの発信をされていたり、ちゃんと愛されている商品に育っていて、自分も嬉しく拝見しています。
みたらしろっぷは、実は醤油ではなく、シロップのジャンルとしての商品なので、結果的にこれまでの醤油商品のジャンルを超えて販路を広げる役割を担った商品になりました。
今回の仕事はデザインだけではなく、企業と担当者が挑戦したいことを形にするための、商品そのものの在り方だったり名前だったりを、あるべき方向へ導く役目が大きかったのかなと思います。実際作ることは20%位の感覚でしたね。担当者の思っていることをいかにスムーズに引き出すかを意識したことが、結果につながったのだと思います。
今回の仕事を通して、人に書いてもらったものを使う、という引き出しが自分の中に一つ増えたなと思います。僕自身、長い間デザインの仕事をやってきた中での課題として、自分自身が手を加えすぎてしまう傾向があるなと思っていて。本来であれば、オーナー自身が前面に出ないといけないのに、僕がデザインしすぎると僕の意思みたいなものが出すぎるという懸念があったんですよね。もちろんそれが求められる仕事もあります。でもそこを、オーナー自身に書いてもらうことで、オーナーらしさが出るし、思いが伝わりやすくなる。それこそ作ったものに対しても愛情を持ってもらいやすくなりますよね。こういう方向もあるなと自分自身にとっても気づきのある良い仕事だったと思います。
クライアントの話を聞いて、最適な提案をさせていただきます。特に食品パッケージデザインを得意としています。
広島市安佐南区川内5丁目21-17