事例 富久長
元々自分はお酒が好きで、日本酒イベントなどの企画もしています。以前、あるギャラリー運営の企画で「酒蔵の杜氏とお酒好きなデザイナー」という対談を組んでもらったのが今田さんとお会いしたきっかけでした。その対談後に「マルガメさん、こんなことできますか」という相談を受けて、小さなツールのデザインから始まり、今ではブランディングに関する部分のお手伝いをさせてもらうようになりました。今田さんは今田酒造の部長であり、杜氏もされていて、今田酒造で中心となって動かれている方なので、デザインに関しては今田さんとやり取りして進めています。
最初にデザインしたアイテムは、お酒を購入したお客様に感謝を伝えるメッセージカードでした。その後、今田酒造さんのメイン銘柄である「富久長」シリーズのひとつの商品のラベル改版のお仕事をいただきました。当時はそれぞれの商品がそれぞれにデザインされていたのですが、富久長シリーズとして見た時に統一感に欠けてバラバラに見える部分があったんですよね。お酒が並んだ時にラベルの統一感があると綺麗ですし、シリーズとしての強さが生まれます。せっかくなので、他のラベルも揃えていきませんかと今田さんに提案して、やりましょう、ということになり、富久長シリーズの全体をデザインすることになりました。
シリーズの全体のデザインに当たり、以前のラベルでは桜のイラストと富久長のロゴが干渉しあっていたので、それらのサイズや配置を検討し、各要素を整理しました。桜のモチーフは継続して使いつつ、より富久長の文字が際立つようなデザインを意図しています。ちなみに桜は安芸津の今田酒造さんの酒蔵のすぐ裏手に正福寺山公園があり、そこの桜が有名ということから使用されています。
この「長期熟成酒」のラベルについては、お祝いや、なにか特別な日に飲むことを想定したものなので、宝尽くし(※)をモチーフにして5個の宝を描いてます。富久長ブランドが以前からモチーフとして使っている宝袋をラベルの中心に配置して、その周囲に縁起の良い、打出の小槌や隠れ蓑などのイラストをあしらいました。このデザインに関しては、宝袋の他に宝物のアイテムも入れたいという意向が今田さんにあって、これらを配置したデザインにしています。ちなみに、この「富久長」の文字は、以前より使われている文字を使用して、富久長であることをきちんとお客様に認識していただけるように配慮しています。
※【宝尽(く)し】 如意宝珠・宝鑰(ほうやく)・打ち出の小槌・金囊(きんのう)・丁子・隠れ蓑・隠れ笠・花輪違い・金函などの宝物を配して,絵や模様にしたもの。
自分のスタンス的には、こうしていきましょうと自分の意見を通すというより、作り手の方と対話しながら決めていく方が多いです。もちろん、より良い提案はしていきたいんですけど、その人その人が「ああしたい、こうしたい」という想いがあるはずなので、その想いを膨らましていきたいなと思ってます。
あとはやはり商品どうこうというより、人が大切。何かを作るのは人で、どういう人が作るかでできる商品も変わってきますよね。作り手の方がどういうことを考えているのか、どういう嗜好をお持ちなのか、好みもありますしね。まずは一番最初に、作っている人の意見や想いを聞くことが大事だと思っています。
僕らの仕事としても、一番大事なのものは作った人たちの想いだと思うので、こういうことをしたいからこれを作った、という想いをターゲットの人達に対して的確に伝えること、それがデザイナーの仕事だと思います。
今田酒造さんのある安芸津町は牡蠣の生産地ということもあり、今田酒造さんの商品に牡蠣に合う日本酒があって、そのラベルデザインをさせてもらいました。それがきっかけで、地元の酒屋さん、牡蠣養殖している企業さんと今田酒造さんの3社でコラボ商品を作ることになり、その広告のデザインを担当しました。そうやってお酒と食が繋がり相乗効果が生まれたことに、すごく嬉しさを感じますし、この仕事、やっていて良かったなあと改めて実感した出来事でした。商品単体だけではなくて、コラボレーションすることで、商品の新しい価値を発見できたり、新しい販路ができて商品自体がもっと広まったりだとか、お店が繁盛したりだとか、良い循環が広がるといいなと思っています。
そもそも広告ってそういうものだと思うんです。売る人が見る人に知ってもらう役割があるように、誰かと誰かをつなぐツールであって、それを自分が橋渡ししていきたいなと思います。
撮影協力:酒商山田宇品本店
広告・企画・WEB・SNSなど、様々な媒体を使い、皆さんに広く告知するお手伝いをさせていただいています。
廿日市市駅前3-18