事例 ボタニカルふりカキ
広島市現代美術館主催、ゲンビ「広島ブランド」デザイン公募2017というデザインコンペに応募してみようと思ったのがこのプロダクトのはじまりです。広島らしいデザインがテーマなので、広島の牡蠣殻を肥料に使い、小分けにして販売するようなプロダクトを提案して応募したところ、書類審査が通って。美術館現地で展示することになり、牡蠣殻の具体的な効能や成分をより深く知るために、実際に牡蠣殻肥料専門のメーカーさんにタイアップやご協力をお願いできないかと思って探し、たどり着いたのが丸栄さんでした。共通の知人に紹介してもらい、丸栄の立木さんとお話させていただいたところ、肥料である牡蠣殻がデザインをされる対象とは思いもよらなかったと、非常に面白がってくださったんです。
捨てられるはずの広島の牡蠣殻を、広島の人がリサイクルして循環している。丸栄さんからみると当たり前のことが、外から見ると地球環境を大切に思う今の時代に合う、非常に素晴らしい活動でビジネスをされている。その活動と、自分たちの提案で一つのプロダクトを世の中に投げかけることに、ご協力を頂けることになりました。
そうして「ボタニカルふりカキ」というプロダクト名でデザインコンペへ出展したところ、なんと観客賞をいただいたんです。当初、販売する予定はなかったのですが、授賞商品をミュージアムショップで販売することになり、そこで改めて助言いただきながら商品化しました。現在は、共同開発商品として資材を提供してもらいながら、NOZa-maru(ノザマル)のプロダクトとして販売しています。
印象的な「ボタニカルふりカキ」というネーミングは、植物を育てる時にわざわざ肥料をまくのではなく、人間が毎日ご飯を食べるような感覚で、気軽に使ってほしいという思いで付けました。「ふりかけ」と「かき」をかけて「ふりかき」で、頭に付けた「ボタニカル」で、植物のためのということを表現しています。
丸栄さんのお取引先は農家やJAなどへのBtoBなのですが、ボタニカルふりカキのターゲットは家庭菜園をするような個人のお客様。BtoBのような20キロ単位の大袋での販売と違い、手に持ちやすかったり、家の中での置き場を気にしなくていいような手軽なもの、そして、それを使う際に、環境にやさしい自然に還る素材である牡蠣のことを知っていただく機会になれば、という思いで作っています。
パッケージはこだわって作っていて、白くてきれいな牡蠣殻が見えるように窓付きの瓶に入れています。瓶の内側は緑色に塗装していて、牡蠣殻を使って量が減っていく程に、内側の緑が見えてきて、まるで芽が出てくるように見えるデザインです。また、瓶に麻紐を巻き付けて、持ちやすさと可愛さを表現したり、かわいらしい牡蠣のチャームを付けることで牡蠣への興味を持ってもらうことをプラスしたりと、直感と論理的な部分を組み合わせたデザインを意識しています。
ロゴデザインは、自然の優しさを伝えるために、あえて優しい手描きで、牡蠣から芽が出てくるような表現にしました。
今後の展開としては、販売ももちろんなのですが、広島の牡蠣殻に触れてもらう機会としてのワークショップも考えています。例えば、幼稚園児が芋ほりする時に1個ずつ瓶を手に持ってまいたり、地域の野山散策をしながら肥料をまいたりする風景や物語になるようなことができると、捨てるものを活かすという問題提起にもなる商品として新しい価値を生み出せると思いますね。
また、今回丸栄さんにこのプロダクトに関わっていただいたことで、企業の中でデザインは大事だという意識を持っていただけました。これまでデザイナーを入れて商品開発をされたことがなかったそうなので、デザインの力や影響力を感じていただけるきっかけになっていて嬉しいですね。これを機に相談をいただける良い信頼関係が築けているので、今後の展開が楽しみです。
今回の事例はプロダクトですが、ノザマルの活動としては、建築を中心に、街づくりや教育関係の仕事など様々な領域で仕事をしています。建築は専門的、工学的な知識が必要とされるので難しい部分もありますが、建築もプロダクトもデザインするという行為自体に差を付けないように意識しています。僕自身、建築、プロダクトの両方があることで刺激しあっていろんなスケール感で仕事できていますね。
現在は広島と鳥取の2拠点で活動しています。土地や物の魅力をうまく発掘して、今あるポテンシャルを生かせるようなデザインや仕事をしていきたいです。そして、大切にしていることは人との信頼関係。デザインした物は最終的に形として見えるものですが、そのプロセスは目に見えないもの。そういう物を一緒に作り上げていくには、やはり最終的には人なんじゃないかなと思っています。
まちづくり・建築・インテリア・プロダクト等の設計、企画、デザインを行っています。人や地域に寄り添った、愛着が芽生え育っていくような仕事を心掛けています。
広島市中区基町12-5-7F(co-ba hiroshima内)