事例 レモンケーキ
宮島でカフェとベーカリーを営む小さなお店、喫茶しま。オーナーの晶子さんは4代目で、お店はおじいちゃんが始められたそうです。昔からの常連さんには喫茶しまとして、観光客の方にはベーカリーカフェしまとしても長年愛されているお店です。晶子さんとは子供の幼稚園が同じなので元々知り合いでしたが、宮島島内の他のお店でインバウンド対応の仕事をしているのが伝わって、声をかけてくれたんです。宮島という土地柄、観光客の多くは外国からのゲスト。最初は、外国人のお客様に対応するための英会話を教えてほしいという依頼だったのですが、本当にそれだけでいいのかとお話して。物の見方や考え方も違うので、サインやツールなどのデザインも、外国人にも分かりやすいように変えた方がちゃんと伝わりますよね。せっかくやるなら、店づくりに自分のような異文化の人の目線を入れて、本気でインバウンド対応しましょうとご提案しました。
英会話をはじめ、店内の英語表記されている物を変えて行く中でも、まず一番に変えてほしかったのが外の看板でした。最初看板を見た時は、本当に意味が分からなくて(笑)。一生懸命考えて調べて描いたものだとは思いますが、外国人から見たら、何を伝えたいのか、どんなものが食べられるのか良く分からない。逆に考えてみても、日本人が海外旅行に行って、変な日本語で書いてあるお店って、ちょっと敬遠してしまいますよね。サインを描くのが得意なしまのスタッフさんに、私の描いたスケッチを見せて方向性を示したり、スタッフさんのラフ案を見せてもらって変えた方がいいところをアドバイスして看板を描いてもらいました。その他継続的にインバウンド対応に関わらせてもらって1年位経った頃に、看板商品であるレモンケーキをお土産物として売っていきたいという相談を受けて、パッケージのリニューアルに取り組むことになりました。
このケーキは元々「ハニーレモンケーキ」という名前でずっと売られていましたが、実は「ハニーレモン」という言葉は外国人にはよく分からない。でも、宮島のハチミツと大崎上島のレモンを使って丁寧に作っている晶子さんの思いが込められた名前なんです。マーケットの事だけを考えると、「レモンケーキ」として売る方が分かりやすいし訴求しやすい、という利点はありますが、それでは晶子さんの思いが置いてけぼりになってしまう。そのさじ加減をちょうどよく、ケンカしないように考えてコピーやデザインを決めていきました。
複数の視点を意識して考えたロゴの形は、レモンの形にも、島の形にも見えるシルエットをラフなタッチで描き、優しい感じに。ロゴの形からもレモンを想像させるようにしています。平仮名で配置した「しま」の文字は、創業されたおじいちゃんが使っていた古いロゴ。このロゴを今のデザインに取り入れて、リクリエイトしました。
また、アピールしたいのは広島のお土産ではなく、宮島のお土産ということ。だから、MIYAJIMAの表記を一番に持ってきています。全体的には外国人にも伝わるように英語表記にしました。パッケージ的にレモンのイエローをアクセントにしたシンプルな形状ですが、自立するのでディスプレイしやすくなったと思います。
新しい見た目になりましたが、結局見せ方を変えても中身がうけないものだと、やはり長続きはしません。実はパッケージリニューアルの際に、街頭で外国人にレモンケーキを味見してもらい、かなりの数のアンケートを取って味のリサーチをしました。その声を基に、晶子さんに改良してもらってできたのが今のレモンケーキなのです。
市場調査といっても、初対面の人に何か聞いても本心の部分は中々おっしゃらないんですよね。そこを掘り下げて声を聴くことで、本当の意味でユーザーの求めているものがあぶりだされてくるんです。そこで見えた物をどう落とし込むか、仕事のパートナーである日本人の妻と、自分が一緒にやっているからこそ、外国人日本人どちらにも偏りすぎない、どちらにも良いと思えるものが作れると思っています。
インバウンド対応や、パッケージリニューアルを通して、喫茶しまさんの売上は創業以来過去最高売り上げを達成しました!小さなお店の店内は、いつも海外の人で賑わっていて、訪れるたびに私自身でさえも驚くほど(笑)。やはりそれは晶子さんが、お客様へ思いを届け切りたいという熱意があるからこそ。それがあるから自分たちも頑張れるんだと思います。
インバウンド対応は1回やって終わりではなく、継続的に様子を見ながら対応していくので、お店の経営面にも色々口を出させてもらっています。ビジネスなので、楽しいだけではなく、目に見える結果を出すことが自分たちの役割。これからも、そんなやり方あったんだ!という切り口で攻めていきたいと思っています。
FUTURE COMMANDの強みは、カナダ出身のデザイナーである私と、日本人の妻がチームであること。インバウンド対応のお仕事が多いですが、デザイナー目線でデザインを軸にしたブランド戦略を実施する、コンサルティングの側面が強いかもしれません。一つの強いブランドを作るには、つぎはぎのデザインをやめて、ワンスタイルにすることと、時代に合わせてアップデートすること。喫茶しまさんに関しても言えることですが、オーナーの思いやお店の歴史を柱に、看板、ロゴ、グラフィック、パッケージ、店づくりなども含めてワンスタイルで迷わないブランドを作り上げるお手伝いをさせてもらっています。
世の中にデザイナーはたくさんいて、みんな綺麗なものは作れるんです。自分たちは、見た目が良くても問題を解決できないものには意味がないと思っています。デザインする前にはヒアリングを行いますが、言葉の理解やその背景にある文化への理解がきちんとできないと、経営者の思いをくみ取った良いデザインは作れません。結局はそこが一番大事なんですよね。
今はインバウンドや、それに伴うブランドデザイン、グラフィックデザインがメインですが、元々家具などのプロダクトデザインもやっていました。これからも自分たちのセンスを活かして、外国人が良いと思うものと日本人が良いと思うものの差をデザインの力で埋めていけたらと思います。
私たちは東洋・西洋の思想、文化を取り入れたブランディングを得意としています。企業・自治体・個人のチャレンジをデザインを通してサポートし成功まで導きます。
広島県廿日市市佐方615−34